ドキュメンタリー映画監督・原一男さんの「わが人生最高の10冊」

「ありのまま」を映すという幻想を超えて

撮る側の世界観が映像に出る

4位の井上光晴さんの『小説の書き方』は、僕が『全身小説家』という井上さんを主人公にした映画を撮っている時、何度も読み返した本です。

実は、天皇に向けてパチンコ球を撃った奥崎謙三を主人公にした『ゆきゆきて、神軍』を撮っている最中から「ドキュメンタリーとは何か」と考え、もやもやしていた。いよいよ答えを見つけださないと一歩も前に進めないという時に出会ったのが井上さんでした。

井上さんのいう「小説における虚構」をドキュメンタリーに置き換えると、疑問に思っていたことのすべてがピタッとあてはまる。たとえば「われわれは欲望によって行動します」という一節があります。それなら、僕らはドキュメンタリーの主人公がどういう欲望を持っているのかと考えながらカメラを向ければいい。井上さんの言葉をテキストに、自分なりのドキュメンタリー論をつくりあげていったんです。

「小説を書こうとする人間は、どんな下手でもいいから、手前勝手の嘘や権力に媚びる絵空事を書いてはいけません」とか、共感したところにいっぱい線を引きました。小説家だけに、文章も読みやすく、上手なんですよね。

8位にあげた『にっぽん劇場写真帖』はブレボケ写真で有名な森山大道さんの最初の写真集です。

もともと僕は写真家になろうとして東京に出てきたんですが、当時「すごい」と思った写真家が3人いて、その一人が森山大道。暗闇で農家のオバチャンが立ちションをしているように見える写真がありますが、真っ黒でよくわからない(笑)。それでいて、何だろうとひきつけられる。

現像を高温でやって、普通は7分くらいで現像液から取り出すのを2倍ぐらいかけると(森山さんの作品のように)粒子が荒れてくる。そうわかって真似ても、絶対狙ったようにはならない。

写真を撮るというのは人間の営みなんですよね。撮る側の気持ちが映像に出る。ちなみにあと二人は、水俣を撮った桑原史成と篠山紀信。「一歩前に踏み込め」と若い頃の篠山さんはしきりに言っていた。存在に近づけと。

『百恵』という山口百恵を撮った写真集を見るといまでも生の肉体のエネルギーを感じます。写真や映像は、撮影する人間がどんな世界観をもっているか、対象への愛憎まで出てしまう。本当に恐ろしいものなんですよ。

(構成/朝山実)

最近読んだ一冊

はら・かずお/'45年山口県生まれ。'87年『ゆきゆきて、神軍』を発表。'94年『全身小説家』が毎日映画コンクール日本映画大賞など受賞。近刊に対談集『ドキュメンタリーは格闘技である』(筑摩書房)