世界の貧困を終わらせるために、私たちができること〜ウェブ時代の「倫理的な生き方」とは?
シリコンバレーで大注目
ビル・ゲイツを筆頭に、慈善事業に乗り出すIT長者が増えている〔photo〕gettyimages

TEXT 池田純一

 ウェブ時代の新たな慈善事業

現在、世界最大のフィランソロピスト(慈善事業家)といえば、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツだろう。

彼が2000年に設立したBill & Melinda Gates Foundation(ゲイツ財団)は、地球上における貧困の撲滅や最貧国の人びとの健康の確保などをミッションに掲げ活動している。

エンダウメント(基金)の規模は443億ドル(2014年12月)に達しているが、これにはゲイツの寄付だけでなく、オマハの賢人たる投資家ウォーレン・バフェットの巨額の寄付も含まれる。

しかし、ゲイツ財団が誇るのは基金の巨大さだけではない。マイクロソフトを創業し世界随一の企業にまで成長させたゲイツの経営の才覚が、財団の運営に生かされている。

ともすれば、営利企業との対比からミッションやパッションばかりが強調されがちなフィランソロピーの世界に、彼は現代的な企業ならば当然視する、合理的かつ思慮のある経営手法をもたらした。

そうした合理的発想を、一つの財団の運営に留めるのではなく、広くフィランソロピー(慈善事業)全体に広げていこうとする動きが現れている。この数年の間ににわかに注目を集めてきた「効果的な利他主義(EA: Effective Altruism)」と呼ばれる運動がそれだ。

ゲイツに見られるような、計量化されたデータを多用する合理的な意思決定態度は、一般に「リゴラス(rigorous: 厳密な)」と形容される。EAは随所でこのリゴラスな特徴を帯びている。

そのためハイテクやファイナンスの世界との親和性が高く、実際、EAの創始者の多くはシリコンバレーやウォール街の出身だ。ピーター・ティールやイーロン・マスクといった投資家/起業家や、GoogleをはじめとしたシリコンバレーのIT企業もEAに関心を示している。

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こうしたEA活動の精神的支柱とされるのが、プリンストン大学教授のピーター・シンガーだ。

先ごろ翻訳された彼の『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』(原著2015年)は、EAの概要だけでなく、ウェブ時代における倫理とは何かという問いに目覚めたミレニアル世代の動きを知るための格好のガイドである。

ただし、予め留意を促しておきたいのは、この本の原題が“The Most Good You Can Do”であることだ。「最大の善」である。

だから、この本はただ善行を勧めるような素朴なものではなく、すでに欧米社会で慣習として根付いている数多あるチャリティ活動に対して優劣をつけようとする挑発的なものだ。

有意義な善行、無意味な善行を容赦なく一刀両断する。シンガーの歯に衣着せぬ論じ方は、彼が時に「現代のソクラテス」と呼ばれるゆえんである。

以下ではこの本の内容を参考にしながらEAの活動を紹介しようと思うが、具体的な団体や個人の詳細についてはシンガーの著作に直接当たって欲しい。