休みは年に3回だけ、血尿なんて当たり前。でも、強くなれるならそれでよかった~「キックの鉄人」はこうして生まれた
【最強さん、いらっしゃい!】後編
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高速道路で武者修行

最強を極めた男と会い、その生きざまを学ぶ【最強さん、いらっしゃい!】。「キックの鉄人」としてその名を残した、日本人初のムエタイ王者・藤原敏男。前編では「鬼の黒崎」に師事し、デビューするまでを語り尽くした。3戦目で17度のダウンを奪われ、敗北を喫した藤原。不屈の精神で甦り、トップに上り詰めるまでの秘話を明かす。

──デビュー3戦目でタイ人に完膚無きまでに叩きのめされて、寮生活に入るわけですが。
藤原 練習しかない日々がここから始まるわけね。

──黒崎先生は具体的にどういった指導方法なんですか?
藤原 さっきも言ったように、先生は基本、何も教えてくれない。例えば「タイ人に勝つにはどうしたらいいんだろう」って思うじゃない。そこで先生に「タイ人を倒すには何が必要ですか?」って質問したんだ。先生はタイ人と戦っているから。

──昭和39年「大山道場対ムエタイ」の全面対抗戦のときですよね。
藤原 そうしたら「戦うのはお前だろ。お前が考えろ」って。先生はつねにそっけないから。だって試合のときも、セコンドには一度も付かないからね。

──それも徹底していますね。
藤原 だから、俺も弟子の試合はセコンドに付かなかった。たまに特例はあったけど(笑)。

──では黒崎先生からアドバイスすらも一切ないんですか?
藤原 先生はね、会話の中でヒントだけくれるの。で「あとは自分で考えろ」「自分で創意工夫しろ」と。

──謎かけみたいですね。
藤原 実際謎かけだったよ。答えは試合が始まったときに気付くこともあるから。だから絶対、黒木健時という人の弟子になったことで、臨機応変が利くようになったと思う。事実「脳みそを働かせろ」って常に言われていたし。

──頭を使うのが嫌で格闘技をやっている人も多いんでしょうけどね。
藤原 それだと絶対に通用しないね。頭を使わないで絶対タイ人には勝てない。断言していい。彼らタイ人は幼児の頃から、街角でムエタイをやっているわけでしょう。

──それに、12歳くらいでデビューする人も多いですしね。
藤原 そんなタイ人相手に、日本人が勝つってったら、これは頭脳もフルに使わないと勝負にならないわけ。

──でも、ヒントを与えられても、わからない場合もあるわけでしょう。
藤原 それをなんとか試合の日までに解くってことだよな。それにさ、ヒントをもらっても、間違った答えを出したら何の意味もないんだから。「これは一体どういうことか」「先生は何が言いたいのか」まずそこから考えるんだよ。

──禅問答みたいなものですね。練習でもそうなんですね。
藤原 実はね、それが練習だけじゃないんだよ。俺は先生の運転手もやっていたから、そこからも色々と試されるんだ。決断力と洞察力。

──例えばどんな?
藤原 例えば、車を運転していてさ、高速に乗るとするでしょう。料金所でお金を払わずにパァーンと行っちゃう(笑)。

──いいんですか(笑)!
藤原 よくはないよね。でもまあ時効でしょう(笑)。今はやっちゃだめだけどね。