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クルマが「水素」で走るってどういうこと?
川辺謙一=著『図解・燃料電池自動車のメカニズム』
 燃料電池自動車MIRAI(画像提供:トヨタ自動車)
 (画像提供:トヨタ自動車)

自動車に大きな変化の波がやってきた。

最新のクルマ「燃料電池自動車」の登場だ。水素を燃料とするその駆動システムは、130年の歴史があるガソリン自動車とは異なり、従来になかった走行性能と環境性能を発揮する。

エンジンを持たない自動車のテクノロジーを、実現しつつある「水素社会」や「自動運転」も視野に、徹底的に解説する。

はじめに

燃料電池自動車や電気自動車の運転は楽しい。これらの乗用車は、「究極のエコカー」と呼ばれ、走行中に環境に有害とされる排気ガスを出さないことがよく知られているが、ただ「エコ」であるだけでなく、ガソリン自動車とは異なる走りが楽しめるクルマなのだ。実際にハンドルを握り、運転すると、その走りのちがいに気付く。

まず、スタートダッシュがパワフルで、レスポンスが良い。それは街で発進と停車を繰り返すとよくわかる。右足でアクセルペダルをグッと踏み込めば、モーターが瞬時に応答して車輪を駆動し、グイッと発進する。静かに、なめらかに、そして背中を押すように力強く加速し、あっと言う間に制限速度に達する。その静かさとスムーズさは、ガソリン自動車の運転では味わえない感覚だ。

山道の運転も楽しい。コーナリングがスムーズだ。ワインディングロードで連続する急カーブもスムーズに通過する。重いエンジンがない分、クルマ全体の重量バランスがよく、操縦安定性が優れているからだ。窓を開けて走れば、上り坂でもエンジン音は聞こえず、鳥の鳴き声がはっきり聞こえる。

そしてこれらは、ただエンジンをモーターに換えたクルマではない。ただ環境に優しいクルマでもない。エネルギーの節約のために我慢を強いるだけのクルマでもない。従来の自動車とは運転感覚が明らかにちがうクルマだ。

そんなクルマは、もはや未来の乗り物ではない。燃料電池自動車は、今まで長らく走り続けたテストコースを飛び出し、いよいよ公道を走る乗り物になった。リチウムイオン電池を搭載した電気自動車は、一足先に公道に現れ、充電スタンドで充電している姿も珍しくなくなった。

とはいえ、購入するとなると、躊躇する人も多いだろう。

まず気になるのは、その値段だ。もちろん、1000万円を超える高級車にくらべれば安いものが多いが、同クラスのガソリン自動車とくらべると高い。日本では国からの補助金を受けられる車種もあるが、それでも割高だ。

使い勝手も気になる。燃料電池自動車の燃料である水素は、水素ステーションでしか充填できない。日本では、一般向けの水素ステーションの整備が2014年に始まったばかりで、設置数も少ない。こうした状況が今後どのように改善されるかは、予測するのが難しい。電気自動車には、充電に時間がかかり、1回の充電で走行できる距離が短いというイメージがある。

本書(『図解・燃料電池自動車のメカニズム』)では、そんなクルマのうち、2014年に一般販売されたばかりの燃料電池自動車を中心に、構造・機能・走行原理などを紹介する。

同時に、要となる電池技術や、比較対象となる電気自動車やハイブリッド自動車(プラグイン・ハイブリッド自動車もふくむ)についても解説する。比較対象となる自動車は、モーターで車輪を駆動する点で共通し、電池技術もふくめて燃料電池自動車の基礎になっている。

内容は乗用車が中心になるが、バスやトラックなどの大型車についてもふれる。本書が読者にとって、駆動を電動化したクルマ―電動自動車―を知る入門書となれば幸いである。

なお本書では、筆者は一般向けに翻訳する立場に徹した。電池技術と関係が深い電気化学を大学と大学院で学んだが、自動車や電池を開発する技術者ではないので、それぞれの専門家の協力を得て執筆した。皆様に感謝申し上げる。

クルマの構造を理解するなら、実物を観察した上で、実際に運転するほうが早い。そこで、本書の第1章、第3章、第5章には、読者が自動車の運転を擬似体験できる部分を設けた。ぜひ自分の手でハンドルを握り、足でペダルを操作する姿を思い浮かべながら読んでいただきたい。きっと瞬間的に何かがわかったような感覚になるだろう。

目の前には、これから乗る燃料電池自動車が駐めてある。手にしたインテリジェントキーのボタンを押してロックを解除。ドアを開けて運転席に座り、ハンドルを握ったら、いざ出発!

著者 川辺謙一(かわべ・けんいち) 
1970年、三重県生まれ。交通技術ライター。東北大学工学部卒、同大学院工学研究科修了。化学メーカーに入社、半導体材料などの開発に従事。2004年に独立し、雑誌・書籍に数多く寄稿。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書に『図解・地下鉄の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・首都高速の科学』(いずれもブルーバックス)、『鉄道を科学する』(サイエンス・アイ新書)、『東京総合指令室』(交通新聞社新書)など多数。本書では、図版、ページデザインも担当。
『図解・燃料電池自動車のメカニズム』
水素で走るしくみから自動運転の未来まで

川辺謙一=著

発行年月日: 2016/02/20
ページ数: 256
シリーズ通巻番号: B1959

定価:本体  900円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)

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