ブルーバックス
コーヒーの「おいしさ」はどこで生まれるのか
旦部幸博=著『コーヒーの科学』
〔photo〕iStock

あなたはどれくらいコーヒーを知っていますか?

今では、我々の生活に欠かすことのできない嗜好品となったコーヒー。その独特の香味はどのように生まれるのだろうか。

自家焙煎店で培われた職人の技術と知恵を、科学の視点で徹底分析。味をコントロールし、自分好みのコーヒーを淹れる秘訣が見えてきます。

はじめに

私の本職は基礎医学、その中でもいわゆるバイオ系の研究者で、普段は大学でがんに関わる遺伝子を研究したり微生物学の講義を行ったりしています。そんな人間が、なぜ「コーヒーの科学」なんて本を執筆するのかと、不思議に思った方もいるかもしれません。

長らく更新をサボっているので胸を張って言えることではないのですが、私は「百珈苑」というコーヒーに関するウェブサイトを公開しています。インターネット黎明期の1996年に始めた、国内コーヒー分野では古株のサイトです。

私がコーヒーに興味を持ったのは大学1年の冬のこと。初めての一人暮らしで迎えた誕生日に「何か一つ、新しい趣味でもはじめてみよう」と思い立ち、たまたま頭に浮かんだのがコーヒーでした。

格段深い理由があったわけでもなく、「コーヒーは割と好きだし」という軽い気持ちで、近所のスーパーで挽き売りのコーヒー豆とペーパードリップの道具を買って、見よう見まねで淹れてみたのがはじまりです。

当時はコーヒーの味がわかるどころか、じつはそれまでブラックで飲んだこともほとんどありませんでした。

それでも「こりゃ何かが違うな」と、翌日近くの本屋でコーヒー本を買って「勉強」をはじめ、コーヒーミルを買ったり、好みの豆を求めて喫茶店巡りをしたり……そしてその後、大学院の研究室で昼食後に皆の分をまとめて淹れる「コーヒー係」を買って出るようになり、毎日淹れているうちにすっかり深みにはまってしまいました。いろんな抽出法や手網焙煎に手を染めたのもこの頃です。

そうして蓄積したコーヒーに関するコツや知識を公表しようと始めたのが「百珈苑」です。それを見てコメントをくれた人たちから誘いを受けて、メーリングリストや掲示板などで交流するようになり、彼らと情報交換しながら一層深みにはまり、現在にいたっています。