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2016年02月18日(木) 山口真美

豊かな「個性」としての発達障害
〜多かれ少なかれ誰もがもっている

山口真美=著『発達障害の素顔』

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〔photo〕iStock

多かれ少なかれみんながもっている
だから「スペクトラム」とよばれているのです。

・コミュニケーションが苦手
・人の顔や目を見て話ができない
・読み書きが苦手

だれにだってある、ちょっとした性格のひとつ。じつは、脳が発達する過程で、うまく視覚が形成されなかったりすると、そのほかの感覚器の形成に影響が現れるというのです。

人より視力や聴力が極端によすぎるために、同じものを見たり、聞いたりしていてもまったく違う世界として受け止めているかもしれない、それが発達障害の素顔なのです。少しのあいだかれらの世界に寄り添ってみませんか。

はじめに

筆者は、乳幼児の心と脳の発達を研究する心理学者である。この世界がなぜ、このように見えるのか、その当たり前のように見える不思議を探っている。

心と脳の発達を調べるうちに、ちょっと気になることに遭遇することもある。

「うちの子は自閉症だと思うんですけど……。研究室に伺うので、ぜひ見てください!」

赤ちゃん実験を始めて5年ほど経過した頃に、そんな電話を受けたことがあった。

私たちの研究室では、実験に参加する赤ちゃん研究員を広く募集している。新聞の折り込みチラシに「赤ちゃんを対象とした見ることの検査」といった広告を出して、赤ちゃんをもつ家庭からの応募を待つ。その電話も、折り込みチラシと研究室のホームページを見たことが、きっかけだったようだ。

私たちの研究室で行うのは、赤ちゃんを被験者にして、形や色、動き、そして顔を見ることなど、視覚に関する機能を調べる「赤ちゃん実験」である。実験のデータを収集するのとあわせて、実験に参加したお礼として、それぞれの家庭の結果をその都度送っている。実験に参加した家族は、自分たちの子どもの発達状態を知ることができるのである。

電話をしてきたお母さんが研究室に連れてきたのは、生後6ヵ月の赤ちゃんだった。上のきょうだいが自閉症であるため、第二子もそうであるにちがいないと、お母さんは思い込んでいるようだった。

後に詳しく説明するように、自閉症の診断は、言葉や社会性の問題が表面化する2歳半から3歳にならないと、確定が難しい。しかしそれらしき兆候は、赤ちゃんの頃からもなんとなく感じられる。なんとなくわかるが、そのうちの大半の子どもは、成長していく中で自閉症的な兆候は消え去り、自閉症と診断されることもない。それが発達の不思議である。

その電話の主も、わが子の様子に直感的にひっかかるところがあったのだろう。しかし、こういう事態で世間が想像するような、悲壮な感じは決してなかった。「この子も自閉症かもしれない」の背景には、むしろ「そう思う方が、楽しいかもしれない」という気持ちが大いに感じられた。「うちの子は、何か人とちがった才能があるのでは」という強い信念があった。

もちろん大変なことはいろいろあって、だからこそ私たちの研究室にコンタクトを取ってきたことは確かだろう。その上で知的好奇心は人一倍強く、「うちの子には、何が見えるの」「うちの子には、何が見えないの」と赤ちゃん実験に積極的に参加してくるのだ。そこには、子どもの個性をひとつの可能性としてとらえ、そのちがいを純粋に驚き、楽しんでいるお母さんの姿があった。

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