なぜ欧米人と日本人の感性はここまで違うのか?
ことばと脳の「深~い関係」

エッセイスト・黒川伊保子さんの「わが人生最高の10冊」
選者の黒川伊保子さん

「失うことの怖さ」を軽くしてくれる

愛する人を失うのが怖くなくなる本を、1位に挙げました。

2011年10月、家族で心底惚れ込んでいたイタリア人バイクレーサー、マルコ・シモンチェリがレース中の事故で亡くなります。世の中の一角が闇に沈んでしまったように感じていたある日、息子がこの本をポケットから出して手に握らせてくれました。

星の王子さま』はこれまで何度も読んできましたが、管啓次郎さんの新訳はまったく違う物語だったのです。死にゆく人の残す思いが伝わってくるんですね。星の王子さまは地球を離れる日、言います。

〈おまえが夜に星を見上げるとね、その星のひとつにおれが住んでいるせいで、その星のひとつでおれが笑っているせいで、おまえにとってはまるですべての星が笑っているように思えるはずだよ〉。

愛する人を失う前に、あるいは愛する人を残していく前に、すべての人に読んでほしい。人類必読の書だと思っています。また、この本の刊行自体は2011年の6月ですが、訳者の管さんは東日本大震災の40日後にあとがきを書かれています。大切な人を亡くされた方々への強い想いが込められている翻訳だとも思いました。

2位はアガサ・クリスティー。定評がありすぎて、手を出すのを恥ずかしがっていたのですが、これも息子に薦められて、50歳を過ぎてからアガサ・デビューしました。

一冊挙げるなら『カーテン』です。ポアロシリーズは一巻から順に読んで行ったので、トリックへの免疫はかなりついていたんです。にもかかわらず、最終巻であるこの作品に仰天したから。

まず殺人の方法が凄いです。もっとも「アリバイのある」方法で殺す。さらにラスト、犯人が誰か以上の驚きが待っています。「殺人」というテーマに生涯をかけて取り組んだアガサの逡巡が見えて、胸を打たれました。

ミステリはもう一つ『おばちゃまは飛び入りスパイ』を。歳を重ねるのが怖くなくなる本。老いに怯えるすべての女性に読んでほしい1冊です。

夫に先立たれ、自殺未遂までした60過ぎの“おばちゃま”は、どうせ死ぬなら最後にやりたかったことをやろうと、CIAに乗り込みます。そして、その歳なのに、ではなく、その歳だから活躍する。

60代女性のずうずうしさや機知、そしてやさしさで、道を切り開くんですね。難事件に遭遇すると、ああ、これは家事で言うところのこういうことねと、主婦にしかできない発想で難を切り抜ける。痛快で励まされます。