労働者200万人の老後が犠牲に
〜日本は本当に先進国なのだろうか?

〔PHOTO〕gettyimages

 

「途上国日本」。最近の報道を見ていると、つくづくそう思う。

厚生年金に加入すべきなのに加入していない労働者が200万人いるというニュース。特に中小零細企業の多くが、「経営が苦しい」という理由で加入しておらず、未加入事業所が約80万もあるという。

それ自体呆れた話だが、さらに呆れたのは、ずっと前から問題になっていたのに、日本年金機構が、「これから」調査をして、加入を指導し、「悪質なもの」には刑事告発も「視野に入れる」という話だ。

「これから」「視野に入れる」とはどういうことか。法律では、経営状態などにかかわらず、加入義務があり、違反には罰則がある。企業経営者が加入しないのは、働く人々の権利を侵害し、将来の生活を危機に陥れる行為だ。「悪質」以外の何物でもない。

それを「経営難」で気の毒だという理由で、お目こぼしを続けてきた日本という国家。労働者よりも企業経営者を優先する。しかも、「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」と称賛された'80年代以降も放置され、今日に至っても、政府は中小企業の反発を怖れるあまり、少しずつの是正しかできない。

さらに、こんな大スキャンダルが、大きく報道されず、国会で大きな問題になることもない。本来なら政権を揺るがす大問題のはずである。

これで先進国と言えるのか。一人当たりGDP(国内総生産)が大きければ先進国だという考え方は間違いだ。GDPばかりに目が行くのは、むしろ途上国の象徴ではないか。

「公正を重視する」。「労働者や消費者の権利を企業の利益に優先する」。「弱者や少数者の権利を守り、多様性を重視する」。「政府や企業の情報を徹底的に国民に開示する」。何より、「決められたルールは守る。守らなければ厳しいペナルティがある」。

こうした社会の理念が共有されていることこそが、先進国の基準ではないのか。日本では、国民の間にそうした先進国の理念が共有されているとは言いがたい。

先月、多くの若者の命を奪った長野県軽井沢町で起きたスキーバス転落事故も然りだ。事故の真相解明はまだだが、少なくとも言えるのは、この国では、「人の命を守るための規制」は「作っては破られる」のが常態化しているということだ。役所の人手が足りないと言うが、本当だろうか。

例えば、運転手の経験や毎日のシフト表をネット上でリアルタイムで公表させ、利用者はそれを見てツアーを選ぶことにすれば、一気に規制の実効性が上がるだろう。虚偽事実を掲載したら即刻、長期営業停止とすれば良い。その結果、危ない企業は潰れて行く。

消費者の手を借りて、安全面が競争の要素になるように工夫するのだ。そんな簡単なこともできないのは、企業が潰れると中小企業経営者が可哀そうだという「途上国」の発想があるからだろう。

事故や不祥事があるとすぐに「規制強化」という声が上がるが、問題の背景にある政府、マスコミ、そして私たち国民自身の「途上国体質」を見直すことこそ、最初にやるべきことだ。

しかし、よく考えてみると、憲法を踏みにじる首相の長期政権が認められる国だから、所詮、先進国にはなり得ないということだろうか。

『週刊現代』2016年2月20日号より

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