現代新書
仕事力を飛躍的に高める「対話」の技法〜大事なのは「言葉以外のメッセージ」を感じ取ること
〔photo〕gettyimages

文/田坂広志

序話 「仕事の技法」の最も根幹的な技法とは何か?

仕事の技法

この書名を目にされて、多くの読者は、こう思われているのではないだろうか?

「『仕事の技法』と言っても、仕事には、様々な分野があり、様々な職種があり、様々な仕事がある。そうであるならば、仕事の技法もまた、様々な技法があるだろう。この本は、その中の、どの技法を語ろうとしているのか?」

その通り。

もとより、仕事には、様々な分野があり、様々な職種があり、様々な仕事がある。

従って、「仕事の技法」にも、様々な技法がある。

それゆえ、著者も、過去に、「企画力」や「営業力」、「意思決定」や「話術」など、様々な技法に関する著書を上梓してきた。

しかし、実は、「仕事の技法」には、企画であれ、営業であれ、開発、生産、サービス、総務、経理、人事、情報、広報、いかなる仕事であっても求められる、「根幹的技法」と呼ぶべきものがある。

本書においては、その「根幹的技法」について語ろう。

ひとたび、それを身につけたならば、いかなる分野の、いかなる職種の、いかなる仕事においても、プロフェッショナルとして最高の力を発揮できる「根幹的技法」について語ろう。それも、読者が、職場において、日々の仕事で経験するような、「具体的な仕事の場面」を紹介しながら、分かりやすく語ろう。

では、その「仕事の技法」の「根幹的技法」とは何か?

それは、「対話の技法」である

なぜなら、どの分野の、どの職種の、どの仕事であっても、その仕事の根幹は、商談、交渉、発表、説明、会議、会合、報告、連絡、相談など、すべて、顧客や業者、上司や部下を始めとする「人間」を相手とした「対話」だからである。

しかし、ここで言う「対話」とは、広い意味での「対話」のこと。

すなわち、相手から「メッセージを受け取り」、相手に「メッセージを伝える」、すべての行為のことである。

そして、改めて言うまでもなく、仕事においては、相手のメッセージを正確に受け取り、相手にメッセージを適切に伝えることが、最も大切なことであり、それゆえ、「仕事の技法」の根幹的技法は、「対話の技法」に他ならない。

しかし、ここまでは、ある意味で、当然のこと。

多くの読者にとって、仕事における「対話」や「コミュニケーション」の重要性は、改めて言われるまでもないことであろう。

では、問題は、どこにあるか?

その「対話」には、二つの種類があるということ。

一つは、「表層対話」と呼ぶべきもの
一つは、「深層対話」と呼ぶべきもの

では、「表層対話」とは、何か? それは、「言葉のメッセージによる対話」のこと。

では、「深層対話」とは、何か? それは、「言葉以外のメッセージによる対話」のこと。

こう述べると、驚かれる読者がいるかもしれない。

「言葉以外のメッセージ、というものがあるのか?」

その疑問を持たれる読者である。

その通り。メッセージには、「言葉のメッセージ」と「言葉以外のメッセージ」がある。

これを、コミュニケーションの専門分野では、「言語的メッセージ」と「非言語的メッセージ」と呼ぶが、実は、日常の仕事や生活においては、「言語的メッセージ」よりも、むしろ、「非言語的なメッセージ」の方が、支配的な役割を果たしている。専門家の中には、コミュニケーションにおいては、「言語」の役割は2割で、「非言語」の役割は8割だとする者もいる。

実際、我々は、この「言葉のメッセージ」と「言葉以外のメッセージ」の違いを、毎日、仕事や生活の場面において経験している。

例えば、言葉では、「いいですよ、気にしてませんから……」というA君だが、その表情からは、例の件を、そうとう気にしていることが伝わってくる場面。

例えば、仏頂面で「申し訳ありませんでした」と言いながら頭を下げるB氏だが、その雰囲気からは、本当に申し訳ないとは思っていないことが伝わってくる場面。

例えば、「耳の痛いことでも何でも言ってください」と言うCさんだが、腕を組んで相手を睨みつける仕草からは、むしろ、「私に何か悪い所でもあるんですか!」という拒否の気持ちが伝わってくる場面。

例えば、「あなたって、本当に馬鹿ね……」というD子さんの言葉の奥から、目の前で落ち込んでいる恋人への優しい愛情が伝わってくる場面。

このように、日常の仕事や生活において、「言葉のメッセージ」として伝わってくるものと、視線や表情、仕草や動作など、言葉の奥から「言葉以外のメッセージ」として伝わってくるものが違っているという経験は、誰もが持っているだろう。

そして、この四つの場面が、いずれも示しているように、「対話」や「コミュニケーション」においては、「言葉のメッセージ」よりも、「言葉以外のメッセージ」の方が、むしろ重要な意味を持っている。

これは、何を意味しているか?

「表層対話」よりも、「深層対話」の方が、重要な意味を持っている

そのことを意味している。

すなわち、仕事や生活の「対話」においては、「言葉のメッセージ」による「表層対話」よりも、むしろ、「言葉以外のメッセージ」による「深層対話」の方が、はるかに重要な意味を持っているのである。

では、このことは、「仕事の技法」という観点からは、何を意味しているか?

読者は理解されたであろう。

「仕事の技法」の根幹である「対話の技法」を身につけるとき、「表層対話の技法」に留まらず、「深層対話の技法」を身につけ、「深層対話力」を高めることが、我々の「仕事力」を、飛躍的に高めていく

読者は、そのことを理解されたであろう。

では、どうすれば、この「深層対話の技法」を身につけ、「深層対話力」を高めることができるのか?

そのことを述べるのが、本書の目的であるが、この冒頭、その要点を述べておこう。

「深層対話の技法」を身につけるためには、商談、交渉、発表、説明、会議、会合、報告、連絡、相談など、日々のすべての「仕事」における「言葉以外のメッセージ」の交換を振り返り、細やかに、そして深く「反省」することである。

ここで、「反省」という言葉を使ったが、これは、「経験したことを、冷静に、理性的に、省みること」であり、感情的な側面の強い「懺悔」や「後悔」などとは異なり、「経験」から「智恵」を掴むための極めて合理的・科学的な方法である。このことは、本書を読み進まれると、深く理解されるであろう。

そして、もし、読者が、この合理的・科学的な方法としての「反省」を、習慣として身につけるならば、日々の仕事の「反省」を通じて、確実に、「深層対話の技法」を身につけ、「深層対話力」を高め、「仕事力」を飛躍的に伸ばしていくことができるだろう。

しかも、この修得のプロセスは、極めて即効的である。もし、読者が、本書で述べる技法を、頭で理解するに留めることなく、日々、実践されるならば、その実践を始めたその日から、何かが変わり始めるだろう。確実に、何かが変わり始めるだろう。

しかし、こう述べてくると、改めて、読者の心には、いくつもの疑問が浮かんでいるだろう。

なぜ、「仕事」の根幹が、「対話」なのか?

「表層対話」とは、何か? 「深層対話」とは、何か?

なぜ、「表層対話」よりも、「深層対話」が重要なのか?

「深層対話の技法」とは、何か? 「深層対話力」とは、何か?

どうすれば、日々の仕事の「反省」を通じて、「深層対話力」を高めていけるのか? 「深層対話力」を高めると、どのように、「仕事力」が高まるのか?

本書においては、そのことを、具体的な「仕事の場面」を通じて、分かりやすく語っていこう。

→「第一話」は明日公開

田坂 広志(たさか ひろし)
1951年生まれ。74年東京大学卒業。81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。民間企業を経て、87年米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員。90年日本総合研究所の設立に参画、取締役等を歴任。2000年多摩大学大学院教授に就任、社会起業家論を開講。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立、代表に就任。08年世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Councilメンバーに就任。10年世界賢人会議ブダペスト・クラブの日本代表に就任。11年東日本大震災に伴い内閣官房参与に就任。13年「現実を変革する七つの知性」を学ぶ場、「田坂塾」を開塾。著書は80冊余。
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