映画監督・塚本晋也さんが選ぶ人生最高の10冊
物語の中で描かれる「リアリティ」を見つめ続けて
映画『野火』のwebサイトより

時間をかけると迷うので、すぐに思い浮かんだ本にしました。大岡昇平の『野火』を最初に読んだのは高校生のときです。

僕は風景描写を飛ばして読む癖があるんですが、肩越しにカメラが据えられているかのような切迫感があり、一字一句を追って読んだ記憶があります。

肌が焼けるような南方の夕日の描写、澄み渡った自然の中で人間が異様な事態に陥っていく。戦争なんか嫌だと言っちゃいけない時代に、飢餓状態の兵隊が「こんなところに来たくなかった」と話すのを、こっそり聞く感覚がしたんです。

昨夏に公開され、現在も『野火』の上映は続いていて、各地に出かけていっています。絶対映画にしたいと20代のときに思い、ライフワークのようになっていったのも強いモチベーションがあったからだと思います。

次の『悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!』は、黒澤明監督の映画づくりの真髄が詰まった本です。僕は中学生のときに8ミリ映画を撮りはじめたんですが、高校に入って友達から「黒澤を観ないとだめだよ」といわれ、銀座の並木座に行ってから、夢中で観るようになりました。

この本には黒澤さんがドストエフスキーに影響された話や、スチール写真がふんだんで、しかもどのカットも無駄がない。見るたび引き込まれます。

堀江謙一さんの『太平洋ひとりぼっち』は小型ヨットの単独横断記で、小学生の高学年の頃に読んで「冒険家になる」と決心し、中学になって船の設計図を描いたりしていました。

2mくらいの小型船なのに船室付きだったのは「密室」への憧れだったんでしょうね。結局航海まではいかず、当時集めた道具は後の映画をつくる際に活用しました。

冒険か、映画か。心をざわめかせながら映画を選択した。でも、冒険心が消えたわけではなく、40歳になって自転車で遠出しようと準備したんですよ。寸前にギックリ腰で中止。用意したゴアテックスなんかは次の映画の現場に使いました。