雑誌 現代新書
働き盛りのがん闘病記〜ほぼ同時進行ドキュメンタリー(2)「ちょっと待って!いきなり入院と言われても…」
朱郷 慶彦 プロフィール

「とにかく、仕事の調整だけでもしないと。まずは、それから再度連絡を取らせて下さい」

しどろもどろになりながらも、私は何とか時間稼ぎを図る。

「あいにく、電話での入院予約は受け付けていません。では、こうしましょう。次回の診察予約を今とっておいて、それまでの間に入院準備の検査だけしておきましょう」

先生の説明によれば、入院前にはさらに精密な全身検査をして、体のどこかに転移がないかを調べるのだという。

「分かりました。それでは、それでお願いします。あくまで、次回の予約時には、治療方法の相談ということですよね?」

というわけで、12月24日に内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)、28日にPET検査(陽電子放出断層撮影)の予約をとってもらい、29日に先生の診察予約をお願いした。

何とか虎口を脱した私は、疲労困憊の思いで会計係へと向かった。治療費の精算は機械で自動的に済ますことができる。

支払いを済ませて、明細書を見てみると、塾員割引はどこにも記載されていない。おかしい。確か二十年ほど前に慶應病院で検査をしてもらった時には、5%の塾員割引をしてもらった記憶があるのだが。

総合受付で恐る恐る尋ねてみると、受付のお嬢さんが満面の笑みで答えてくれた。

「数年前に塾員の方への割引は廃止されたんですよ」

やれやれ。せっかくの私のスマートさも、とっくの昔に期限切れになっていたらしい。

治療法は自らの意志で

それから一週間余り、慶應病院に何度か検査のために通いながら、私は必死に考えた。

このままでは、ベルトコンベアに載せられた工業製品よろしく、どんどん治療が進んでしまう。行きつく先は、最善の場合で、会話が困難になり、流動食しか摂れなくなる喉の機能障害。悪くすれば、死が待っているだろう。

もしかすれば、入院したが最後、抗がん剤や放射線治療によって体力が奪われ、そのまま社会復帰ができなくなる可能性もあるだろう。なにしろステージⅣの末期がんなのだ。何が起こってもおかしくはない。

それならば、自分自身で納得した上で、選択をしたい。

あらゆる治療法を比較検討した上で、自らの意思で決断をしたい。

私はそう強く思った。