雑誌 現代新書
働き盛りのがん闘病記〜ほぼ同時進行ドキュメンタリー(2)「ちょっと待って!いきなり入院と言われても…」
朱郷 慶彦 プロフィール

慶應病院へ

JR信濃町駅を降りて改札を出ると、すぐ正面に慶應義塾大学病院が見える。 

慶應とはいっても、私が卒業したのは法学部。こちらは医学部である。法学部の学生は一、二年生の間は日吉キャンパスに通い、三、四年生になると三田キャンパスに通う。一方の医学部は、一年生の時だけ日吉キャンパスに通うが、二年生以降はここ信濃町で学ぶことになる。要は、同じ慶應は慶應でも、超エリートの医学部生と、他学部生とでは、ほとんど交流はないのである。 

しかし、そこは大らかな慶應の校風のこと。ペンのマークとブルー・レッド&ブルーの三色旗の下、みんな塾生、塾員のよしみなのである。奈良県民がイスタンブールの街角で大阪府民と出会ったら、同じ関西人として話が盛り上がるのと同じであろう。ちょっと違うか。

とにかく、2015年12月18日に、私は済生会中央病院からの紹介状を握りしめ、慶應義塾大学病院の耳鼻咽喉科の門を叩いたのである。

ここで出てきたのが、またもや若い女医さん。私の知らないうちに、がんの担当は女医さんに限るという法律でもできたのか?

私の顔を見るやいなや「中咽頭がんですね」と言うではないか。何という神の眼力。一発でそれを見抜くとは……まあ、紹介状に書いてあるわけだが。

どうせ済生会中央病院と同じ所見と治療法を聞かされるだけだろうと高をくくっていた私は、ここで少し驚かされることになる。

慶應の女医さんいわく。

「幸い、がんと、他の組織の境界部分がはっきりしているので、手術できないことはないと思います」

あれ、済生会では手術は不可能と言っていたけれど?

「ただ、手術をするとなると、喉と鼻を塞ぐ蓋の部分がなくなるので、術後には食事の摂取障害や会話の障害が問題となります。腹部など体の他の部分から組織を移植する再建手術を行うことになりますが、大手術になりますね」

「つまり、手術をすると、食べたり話したりという機能に障害が出る可能性があると」

「間違いなく障害は出ますね。再建手術をしても100%というわけにはいきません」

それだけの大手術をしても、機能障害は残るわけだ。しかも、再発率がゼロということもないだろう。やっぱり手術はないな。

「手術をしないとなると、放射線と抗がん剤を合わせてがんを叩く治療法となります」

なるほど、そちらの方が楽そうだな。

「ただし」女医さんの目が険しくなる。「手術ではないからといって、こちらも楽な道ではありません」