雑誌 現代新書
働き盛りのがん闘病記〜ほぼ同時進行ドキュメンタリー(1)
「まさか、このオレががん?」

〔photo〕iStock

 文・朱郷慶彦(小説家・脚本家)

まさか、このオレががん?

2015年11月下旬のこと。

私はいつものごとく、喉の痛みと発熱によって床に伏していた。

いつものごとくというのも、昔から扁桃腺炎もちの私は、数ヵ月に一度は扁桃腺を腫らして寝込むのが通例だったからだ。

今回喉が痛くなって熱が出た時も、阿佐ヶ谷あたりに住んでいる親戚がちょっと遊びにやって来た程度の感覚でしかなかったわけである。

高校一年になる息子を捕まえて、「おい、ちょっと喉の様子を見てくれ」と口を大きく開けて見せると、私の喉を覗き込んだ息子が顔をしかめた。

「うわっ。扁桃腺の片側がものすごく腫れてるよ。すぐ病院行った方がいいって」

調子に乗った私が今度は妻を捕まえて扁桃腺を自慢して見せると、妻も一目見るなり目を丸くして「馬鹿なことしてないで、早く病院に行きなさい」と言うではないか。

病人というのは、自分の病状がひどければひどいほど、なぜか嬉しくなってくるものだ。私には昔から、嬉しくなると馬鹿になるクセがある。

「やっぱり、扁桃腺の腫れ、すごい? へえ、そんなにすごいんだ。じゃあ、明日にでも病院行かなくちゃなぁ。えへへへ」

「馬鹿言ってないで、今日これから行きなさいよ! どうせいつものように、抗生剤飲むまで治らないんだから」

妻は私の馬鹿さ加減にも、阿佐ヶ谷の親戚の来訪にも、すっかり慣れっこになっている。

そう。耳鼻科に行って、抗生剤を処方してもらえば、嘘のように扁桃腺の腫れは引き、熱も下がるのである。ただ、いかに抗生剤の力をもってしても私の馬鹿だけは治らない。

私はルーティーンをこなすがごとく、淡々とネットで調べた耳鼻科医院に診察を受けに行き、担当してくれた美人の女医さんに腫れた喉を見せて、抗生剤を処方してくれるように頼んだ。

なにしろこっちは扁桃腺炎に関しては年季の入ったプロ中のプロである。抗生剤の銘柄まで指定して依頼するのだから、話は早い。点滴をしてもらい、飲み薬の抗生剤ももらって、安心して帰宅したのであった。

しかし不思議なことに、今回に限り、抗生剤を飲んでも一向に喉の腫れが引かない。熱は数日で下がったが、扁桃腺は腫れたままだ。

これは不思議な現象だった。言ってみれば、中学生になったのにまだ半ズボンをはいて登校しているようなものだ。ちょっと違うか。

耳鼻科で血液検査や細菌検査などをしてもらったが、異常は認められなかった。
最初の診察から一週間後、ついに先生が私にこう言ってきた。

「これは単なる扁桃腺の炎症ではないようですね。喉の横のリンパ節のところにもシコリがありますよね。もしかしたら腫瘍の可能性もありますから、もっと大きな病院で組織検査をしてもらって下さい」