雑誌 企業・経営
百貨店業界のトップランナーは、「買う楽しみ」をプロデュースする
三越伊勢丹HD・大西洋社長に聞く

三越は江戸時代の1673年に呉服店・越後屋として創業した。当時、呉服の代金は現金精算でなく、年末に利息と合わせて請求する「掛け売り販売」中心。越後屋はこれを改め「現銀掛け値なし」とし、人気を博した。
伊勢丹は1886年の創業。流行を分析し、次世代の人気商品を創り出す品揃えの巧みさで繁盛店を築いてきた。この2社が合併して生まれたのが三越伊勢丹ホールディングス。大西洋社長(60歳)は伊勢丹出身で、現場叩き上げの気さくな人物として知られる。

前社長の言葉の意味がようやくわかってきた

大西洋(おおにし・ひろし)'55年東京都生まれ。'79年に慶應義塾大学商学部を卒業し、伊勢丹へ入社。紳士統括部長などを経て、'08年に三越常務執行役員、伊勢丹常務執行役員。翌'09年伊勢丹社長に就任し、'11年三越伊勢丹社長。'12年2月に、持ち株会社・三越伊勢丹ホールディングス社長を兼任、以来現職

【感動】

新入社員として売り場に立っていた時期は、やり甲斐があると同時に非常に苦しかったですね。当時は服を売ると、値札のタグを切ってポケットに入れていました。

私は商品を売れず、尊敬する上司にたびたび休憩所へ呼ばれ、なぜ売れないのか考えるように言われました。上司のポケットを見ると、私の何倍も切ったタグが入っているのです。

私は何とか事態を打開しようと、休日に服の工場を見に行ったり、給与をはたいてVAN、JUN、コム・デ・ギャルソン等、流行の商品を身につけたりしてみました。

作り手はどんなストーリーを持っているのか、なぜこの商品に数万円の価値があるのかを学ぼうとしたのです。これをお客様に伝えなければ、私がいる価値はないと思って売り場に立つと、次第に私の成績は伸び始めました。

私は今も、弊社で最も大変な努力をしているのは売り場に立っている人間だと考えています。この時代の苦しさと、売れるようになった時の感動を覚えているからでしょう。

【業界の外】

伊勢丹のバイヤーは「次の時代をどれだけ正確に読めるか」で評価されていました。次の流行を見極め、適切なタイミングで商品を並べ続けることで、お客様は初めて「あの店に行くとワクワクする」と頻繁に足を運んで下さるからです。

次の流行を知る秘訣は、実を言うと百貨店以外の業界の動向や流行を知ることです。最近でいえば、円安で訪日外国人が増えつつあるタイミングを捉え、三越銀座店に免税店を出店します。飲食店や家電の店に行っても、なぜこれが売れるのか考え続けるのです。こうして次に必要なことが見えてきます。

【決断】

社内では課長、部長、役員・・・と昇進していきますが、社長になった瞬間、一連の昇進ラインから外れた特殊な存在になります。創業社長は自分が興した企業だから、大きな投資や、別の分野への進出など思い切った決断ができます。一方、サラリーマンとして働いてきた社長は、一般にこうしたことが苦手です。

でも経営者になってしまえば、求められるものは同じ。売り場を大改装して時代に合わせるなど、社員の時はとてもできなかった、思い切った決断もすべきなのです。弊社前社長の武藤信一は、私にたびたび「社長は違う」と言っていました。私がその意味を理解する前に、彼は亡くなってしまいましたが、今ようやくその意味がわかってきました。

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