水木しげる、最後のインタビュー
「生死について、人間について、自分が抱えていた疑問に答えてくれたのは、ゲーテの言葉だった」

昨年11月30日に亡くなった漫画家・水木しげる。太平洋戦争真っ只中の10代の頃から93年の生涯にわたり、水木氏の思想の"背骨"となったのは、ドイツの文豪・ゲーテの言葉だという。奇しくも遺作となってしまった新著『ゲゲゲのゲーテ』(双葉新書)のテーマもまた、その名言の数々だった。
今回、現代ビジネスでは、昨年10月中旬に収録された生前最後のインタビューを同書より抜粋、特別に公開する。「生と死」「幸福」「仕事」など、ゲーテの言葉に託した、水木氏の最後のメッセージに耳を傾けたいーー。(聞き手・構成/左古文男)

水木サンの80%はゲーテです

──本書では知の巨人として知られるゲーテの格言の中から、特に印象に残る93の言葉をとりあげて紹介しているわけですが、初めてゲーテに触れたのはいつ頃ですか。

水木 手に取ったのは十代の終わり頃です。よく読んだのは、二十代、三十代。それ以降は、あまり読んでない。二十歳に近づき、戦争もきびしくなってきて、いつ召集になるかもしれなくなった。

それまでは哲学なんてものとは無縁に生きてきたわけだけど、死の恐怖を克服するために、どうしても読むようななりゆきになったんです。聖書も何度か読んで、暗記した文章もありますよ。

――先が読めなくなった人生をどのように意味づけすればいいのかを見つけようとしたわけですね。哲学書は、ゲーテ以外には誰の著作を読まれましたか。

水木 いろんな本を読みましたけどね。カントだとかヘーゲル、ニーチェ、ショーペンハウエルだとかも、よさそうなので読みましたけど、やっぱりゲーテは全体的に大きくて、頼りになるって感じでしたね。

カントとかヘーゲルは学者ですし、あんまりね。ゲーテは(ワイマール公国の)宰相ですし、人間として大きいですよ。普通の人間よりひとまわり大きい。

――それで、なによりもまずゲーテに学ぶべきだと考えたわけですね。

水木 ゲーテはひとまわり人間が大きいから、読んでいると自然に自分も大きくなった気がするんです。

――数年前からニーチェがブームになって読まれていますが、ニーチェ哲学はどう思いますか。

水木 他の連中は思考して、考えたことを吐露するという感じだけれど、ゲーテの場合は人生とか、人間とか、すべてを含んだ発言なんです。幅が広いから参考になるわけですよ。そこへいくとニーチェなんかは特別なときの言葉が多かったように思いますね。

――人生とはなにか? 人間とはなにか? 幸福とはなにかといったような本質的な問いに、ゲーテは明快に答えてくれるわけですね。ニーチェはゲーテのファンだったから、ゲーテ哲学に大きな影響を受けているのではないでしょうか。

水木 そうでもないです。ゲーテは人生をじっくりと味わった言葉ですよねえ。ショーペンハウエルやニーチェとかは、ケンカ腰で喋るような感じで(共感できなかった)ね。

日本ではニーチェ的な考え方はあまり上手くいかないのと違いますか。ニーチェというのは他人に勝たなけりゃいかんという苦しい考え方をして、大騒ぎしてるからねえ。