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2016年01月19日(火) 岸本忠三,中嶋彰

これが「がん治療」の切り札だ!
〜免疫のスゴすぎる働き、研究最前線

岸本忠三・中嶋彰『現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病』

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“殺し屋”の異名を持つキラーT細胞  「はたらく細胞」(清水 茜・作『月刊少年シリウス』連載)より

ノーベル賞級の新研究満載!


外からの侵入者だけではなく、「内なる敵」がんや難病にも、免疫はここまで戦える。樹状細胞による「抗原提示」、制御性T細胞や免疫チェックポイント分子による「免疫寛容」――。ノーベル賞級のこれらの発見がパラダイムシフトとなり、いまや免疫療法は、がんや難病の治療においても「切り札」として期待されはじめている。

本庶佑、坂口志文、稲葉カヨらの活躍を追ううちに、免疫世界の最前線が一望できる傑作ドキュメント。大人気コミック「はたらく細胞」のキャラクターも多数登場!

プロローグ

免疫は「外の敵」とも「内の敵」とも戦っている

一度かかった病気には、次はかからない。二度目の「疫」病からは「免」れる。「免疫」という言葉には、そんな意味が込められている。

そうした免疫の働きを担う主役の一つを人類が突きとめたのは、いまから百年以上も前のことだった。日本の北里柴三郎が、破傷風菌の毒素を中和する抗毒素――現代の私たちが「抗体」と呼ぶ免疫分子――を、留学先のドイツで発見したのである。

北里は残念ながらノーベル賞を逃したが、彼の〝弟子〟は長い時を経て師の無念を晴らした。北里研究所で研究に励み、微生物から感染症の特効薬を探り当てた大村智(北里大学特別栄誉教授)が、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのだ。

抗体のたぐいまれな働きは、西アフリカでエボラ出血熱が猛威をふるったときにも世界を刮目させた。運よく生き残った人の血液から抗体を含む血清が取り出され、患者の治療に使われたのだ。北里が考案した血清療法である。

北里から始まる現代免疫学の歩みは、私たちに「抗体医薬」という良薬ももたらした。異物を捕まえる抗体の性質を利用して、関節リウマチなどの自己免疫疾患やがんを治療する医薬だ。

抗体だけではない。人の体の中ではさまざまな免疫細胞が、外部から侵入した病原体や、頻繁に発生するがん細胞と戦いつづけている。外の敵にも、内の敵に対しても、免疫はさまざまな手段を駆使して、人類という種を守ってきてくれたのだ。

免疫世界の“役者”たち

免疫の舞台で主役級の活躍をするものの一つが「樹状細胞」と呼ばれる免疫細胞だ。体の中をパトロールして、侵入した病原体を長い腕で捕まえると、「こいつが敵だ」といって仲間の免疫細胞に〝見せ〟にいく細胞である。

樹状細胞のこうした営みは「抗原提示」と呼ばれる。「抗原」とは、病原体が持つ目印のこと。何はともあれ、わが身を襲撃してきた犯人の顔がわからなければ、免疫はことを起こせない。その点で樹状細胞は、免疫に欠くべからざる存在なのだ。

“敵”の姿を仲間に教える樹状細胞 「はたらく細胞」(清水 茜・作『月刊少年シリウス』連載)より

抗原提示の営みは、何によって、どのように行われているのか。こうした根源的な疑問と謎に魅了され、一生をかけて樹状細胞を隅々まで調べ尽くしたのは、京都大学の稲葉カヨとカナダのラルフ・スタインマンだった。

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