賢者の知恵
2016年01月23日(土) FERMAT 池田純一

ザッカーバーグはこれを読んで「未来」を見通している?

全米で話題のベストセラー『権力の終焉』

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ザッカーバーグ夫妻〔photo〕gettyimages

TEXT 池田純一

ザッカーバーグに未来を指し示す

現代社会の担い手は、幼少期からインターネットの洗礼を受けた「ミレニアル世代」へと移りつつある。

その世代の一人として、若くして成功を収め次代の経営者として期待を集めているのが、Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグだ。そして彼のお気に入りの一冊がモイセス・ナイムの『権力の終焉』である。

この本はFacebook上でザッカーバーグが主宰するブッククラブの第一回で推薦され、その結果ベストセラーになった。

『権力の終焉』とあるが、議論の骨子は、20世紀にあった権力が衰退していることを、政治、経済、軍事、ビジネス、宗教等の広範な領域に目配りしながら論じているところにある。

もちろんザッカーバーグが見出す前から、ナイムの名はジャーナリズムの世界で知られていた。だがその専門性ゆえベストセラーになるような著書ではなかった。その点では、そもそもこの本が日本語に訳されたこと自体、ザッカーバーグの功績が大である。

ここでは、内容そのものよりも、どうしてザッカーバーグの心を鷲掴みにしたのか、そしてザッカーバーグの行動にどんな影響を与えたのかという観点から扱いたい。

前回とりあげたジェレミー・リフキンの『限界費用ゼロ社会』がベビーブーマーの過去からの残響であるとすれば、ナイムの著作は、ザッカーバーグにとっては、ミレニアル世代を導く未来の指標の一つであった。

 ベネズエラの元産業貿易大臣

モイセス・ナイムは1952年生まれのベネズエラ人で、経営、政治、ジャーナリズムの交差する場を経験してきた。MITのビジネススクールで博士号を取得し、89年から90年にかけてベネズエラの産業貿易大臣を務めた。

モイセス・ナイム

その後は96年から2010年まで14年間、外交政策誌“Foreign Policy(FP)”の編集長として活躍し、今ではその縁からカーネギー国際平和財団のフェローである。

FPは、『文明の衝突』で知られるサミュエル・ハンティントンがベトナム戦争の最中の1970年に創刊し、78年にカーネギー平和財団が運営に携わり、08年にワシントン・ポスト社に買収された。

ワシントンDCをカバーするアメリカの高級紙の一つであるワシントン・ポストは、13年にAmazonのCEOであるジェフ・ベゾスに所有権が移ったが、その際にFPは移譲されず、グラハム家の持株会社であるGraham Holdings Companyの傘下に留まった。

外交誌として有名な“Foreign Affairs”が、国連本部を有するニューヨークを拠点とするのに対して、FPは連邦政府を有するワシントンDCが本拠地だ。片や「外交問題(foreign affair)」、片や「外交政策(foreign policy)」であるのは、2つの都市の性格の違いを反映している。

このような伝統をもつFPの編集経験を通じてナイムは、21世紀を迎えて世界各地で旧来の権力が効力を失いつつあるという実感を得た。その実感を具体的にあとづけ、一つの展望へと練り上げたのが『権力の終焉』である。大規模かつ集権的なまとまりのある近代組織は何であれ、この先従来のようには機能しなくなると見通している。

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