自国の未来に対して世界一「悲観的」なシンガポールの官僚たち

受け継がれるリー・クアンユーの遺伝子

2016年01月08日(金) 田村 耕太郎
〔PHOTO〕gettyimages

未来を予測することのみが職責

いくら優れているからといっても、歴史も体制も人口も違う外国の事例を、日本がそのまま真似をすればいいとは思わない。しかし、これだけはすぐにでも真似すべきだと強く思うものがある。それはシンガポール政府の「Future Group」だ。

「Future Group」とは、朝から晩まで四六時中、あらゆるシナリオを用意し、国の未来を考えることに没頭している特殊な部署だ。それが各省庁に配置されていて、首相府にはそれらに横串を刺す組織もある。

近々、そのメンバーが来日する。現在、政府間で調整をしているところだが、官僚では設定できないアポイントを私に依頼してきたので、私の大事な友人たちを紹介することにした。

自国の未来を徹底して悲観視する

彼らとの出会いは昨年の初夏にさかのぼる。ある日、友人の欧州系巨大PEファンドトップの紹介で一本のメールが送られてきた。ざっと次のような内容だった。

「私たちは**省の人間で、シンガポールの未来をできるだけ正確に予測しようと日夜、シンガポール在住の外国人知識人にお会いして議論させていただいています。先日、**氏から田村さんのことをお聞きしました。ついては資料を送らせていただきますので、お目通しいただいた上で、以下のテーマに関して議論させていただきたく存じます」

私は「こちらの時間をタダであげるのだから、高い給料をもらい、おそらく自信満々のシンガポール官僚をギャフンと言わせてやるか」と意気込んで、シンガポールに関する悲観的なシナリオをいくつも用意してやろうと決めて準備を開始した。

さっそく送られてきた資料を開いてみると、そこにはシンガポールの経済・財政・地政学上の課題が数字を含めて列挙されていた。それに目を通して驚いた。おいおい、待ってくれ。これじゃあ誰だって悲観的になってしまうじゃないか・・・。ひょっとして彼らは、私のように彼らに挑戦するためにあえて悲観的になろうとしている外国人よりも、ずっと悲観的に準備しているのでは?

実際に会って議論をしてみると、私の予感は的中した。なんと彼らは、私が用意した渾身の悲観シナリオよりもよっぽど悲観的な未来像を想定していたのだ!

しまいには「そうはいってもあなた方はたった50年でこんな素晴らしい国を作って、まだあぐらをかかずに改革を進めて頑張っているじゃないか。もっと自信をもっていいんじゃない?」と励ましている自分がいたくらいだ。




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田村 耕太郎

(たむら・こうたろう) 前参議院議員。エール大学上席研究員、ハーバード大学研究員などを経て、世界で最も多くのノーベル賞受賞者を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で唯一の日本人研究員を務めた。
国立シンガポール大学公共政策大学院名誉顧問、新日本海新聞社取締役東京支社長。
1963年生まれ。早稲田大学卒業、慶応義塾大学大学院修了(MBA取得)。デューク大学ロースクール修了(法学修士)、エール大学大学院修了(経済学修士)、オックスフォード大学上級管理者養成プログラム修了、ハーバード大学ケネディスクール危機管理プログラム修了、スタンフォード大学ビジネススクールEコマースプログラム修了、東京大学EMP修了。
2002年から10年まで参議院議員を務めた間、内閣府大臣政務官(経済財政、金融、再チャレンジ担当)、参議院国土交通委員長などを歴任。
シンガポールの国父リー・クアンユー氏との親交を始め、欧米やインドの政治家、富豪、グローバル企業経営者たちに幅広い人脈を持つ。世界の政治、金融、研究の第一線で戦い続けてきた数少ない日本人の一人。
2014年8月、シンガポールにアジアの地政学リスクを分析するシンクタンク「日本戦略情報機構(JII)」を設立。また、国立シンガポール大学(NUS)リー・クワンユー公共政策大学院の兼任教授に就任し、日本の政府関係者やビジネスリーダーに向けたアジア地政学研修を同校教授陣とともに実施する。
著書に『君に、世界との戦い方を教えよう 「グローバルの覇者をめざす教育」の最前線から』などがある。