往復書簡

鎌倉から世界へ。テレビと真逆のメディアで「地元への愛着」を取り戻す──土屋敏男から森川亮さんへ

2016.1.14 THU

『電波少年シリーズ』などの演出・プロデュースで知られる日本テレビ放送網編成局ゼネラルプロデューサーの土屋敏男さん。現在は人生をドキュメンタリーとして残す事業を展開するLIFE VIDEO代表取締役社長も務め、テレビとは真逆のメディア・サービスづくりに取り組んでいる。

「ネットは数字が出すぎている」「多数決から面白いものは生まれない」――土屋さんはC Channel代表取締役社長の森川亮さんとの往復書簡を交わすなかで、このような言葉を残している。

対する森川さんの2通目には「メディアの未来は『思いきり広い』か『思いきり狭い』の二者択一」と書かれている。意外なことに、土屋さんは「メディアとはなにか」を考えたことがないという。だからこそ見えたメディアの未来とは――。

ライフビデオの先に考えていること

ぼくは2012年7月にライフビデオを立ち上げました。テレビ局ではずっと一人でも多くの人に番組を届けることをやっていましたが、その真逆をやろうと考えたのです。勝算があったかというと、確信はないけれど一応あるようなことは言っていた。でも、実際はやってみないとわからない。

いまも黒字ではないけれど、これまでに辿り着けなかったところに向かうことができています。たとえば、個人のライフビデオをつくるときに、昭和30~40年代の商店街の写真が出てきたことがあります。それを見ると、現在はシャッター商店街だけれど、昔は賑やかだったことがわかるわけです。

この延長線上で、ぼくの住んでいる鎌倉に絞った「鎌倉今昔写真」というアプリを面白法人カヤックと一緒につくりました。個人の押入れから出てくる写真が、まちの財産なんじゃないか――。このことをカマコンバレーで提案してアプリというかたちになったのです。

ぼくがライフビデオの先に考えているのは、インターネットがグローバルでフラットなつながりを実現するのとは対照的な世界。つまり、自分が歩き回れる範囲を大事にすることです。いま、「地方創生」が叫ばれていますが、昔は東京の大学に行き東京で就職することがいいことのように思われていたのに、いまになって突然「帰れ」と言っている。

そこで大切になるのは、自分が生まれ育った場所に対してもう一度愛着を持つことです。「今昔写真」では、自分が歩き回れる距離に残された記憶を集積・整理することで、地域活性化を目指します。

いまでは鎌倉をはじめ、鯖江、横須賀、今治、大磯……どんどん広がりを見せていますが、ネットによって世界と自分の生活圏にもう一回愛着を持つ。それをまち単位でやることに、ライフビデオの経験がつながっています。

肉体的な距離をもう一度見直したい

「今昔写真」にはアーカイブとしての価値があります。いま高齢者の人たちが孤独死することもありますが、自分のアルバムに残る家族の写真や自分が若いときに撮った写真それ自体がまちの資産になるのです。

デジタルアーカイブにすることによって、若い人も含めて自分のまわりの場所に愛着を抱いていく――。人間が歩く距離は時速4kmから大きく変わることはないのだから、肉体的な距離をもう一度見直そうと考えています。

ぼくがやっているのは――これまでもそうだけれど――みんなの向かう先と真逆を行くことです。進んでいけば、なにかにぶち当たる。それがいまは、自分のまちに愛着を持とうということなのです。「今昔写真」というモデルを、将来的にはニューヨークやベルリンなど世界に持っていけないかと考えています。

インターネットによって、世界のマスに情報を伝えられる可能性が生まれ、いろんな人たちを横につなぐことができるようになった一方、自分たちの生活圏を活性化するという方向もあると思っています。すでに20~25都市から話が来ているので、少しずつ広げていきたいです。 

地元の愛し方を、スマホ上につくる

これまでテレビやWeb、アプリ……さまざまなメディアにかかわってきましたが、実は、いまでもメディアがなんなのかわかりません。そもそも考えたこともないです。

それでも、確信していることがあります。それは、ネットの出現以降、数字ばかりを追うことがメディアの中心になってきているからこそ、自分が歩き回れる世界が大事になるのではないかということです。

たとえば、今治の「今昔写真」は東京に来ている出身者が4人で始めたのですが、彼らが運営する非公開のフェイスブックグループには地元の人など500人以上が参加しています。

そこでメンバーが家族やまちの写真をどんどんアップし、お互いに今治に対する愛着を再確認・再発見してコミュニティがどんどん活性化していく様子が見られます。これもフェイスブックという新しいツールがあるから、実現していることです。

自分の住んでいるところを愛したいけれど、愛し方がわからない――。これは大きな課題だと思います。埼玉や千葉の人だって、東京に通いながらも地元のスーパーも幼稚園も利用する。でも地元の愛し方がわからない。その愛し方をスマホ上につくってあげたい。それが「今昔写真」なのです。

このアプリがきっかけで地元の人とコミュニケーションが生まれるかもしれない。日本人が長らく忘れてきた地元への愛着、そしてその取り戻し方。家を出たときに、近所の人と挨拶してコミュニケーションとることは気持ちいいと思います。

「今昔写真」には地元のコミュニケーションを活性化させるツールとして、みんながどこかで置いてきた大事なことをもう一度取り戻せる可能性を秘めていると考えています。

地方都市はこれまでは、例えばNHKの大河ドラマの舞台になったから観光に力を入れて、一時期だけ人が来ることはあったけれど、長持ちはしませんでした。観光についてはインバウンドのように大きなことも考えないといけないけれど、それよりずっと手前にある自分の地域におけるコミュニケーションを通じてまちを活性化していく必要があると思うんです。

だって、そのほうがハッピーでしょ?

おわり。

土屋敏男(つちや・としお)
日本テレビ放送網株式会社 編成局ゼネラルプロデューサー兼LIFE VIDEO株式会社 代表取締役ディレクター。1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網株式会社入社。主にバラエティー番組の演出・プロデューサーを担当。『進め!電波少年』ではTプロデューサー・T部長として出演し話題に。その他の演出・プロデュース番組として『天才たけしの元気が出るテレビ』『雷波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!』など。また、「汐留イベント」プロデューサー、岡本太郎「明日の神話」プロジェクトプロデューサー、「間寛平アースマラソン」総合演出等を担当。2005年「第2日本テレビ」立ち上げ。2012年「LIFE VIDEO.jp」設立。Twitterアカウント:@TSUTIYA_ON_LINE

(取材:徳瑠里香、佐藤慶一、藤村能光[サイボウズ式]/文:佐藤慶一/写真:岩本良介)