現代新書
「テロに気をつけろ」と言われても、何を、どう気をつければいいの?
自分の身は自分で守るしかない
〔photo〕gettyimages

文/菅原 出(危機管理コンサルタント)

「罪と恐怖を与える」

ISは、日本人人質事件の際、「お前たちを場所を問わずに殺戮する。日本にとっての悪夢が始まる」と公言した。そのため、日本人の間でテロの脅威に対する不安が高まっている。

しかし、闇雲にテロを怖がるより、渡航・活動を計画している地域でISがどのような戦略をとっているのか、どのような能力を持っているのかを分析し、脅威の度合いを知ることが先決だ。

ISは、シリアやイラクでは直接支配する領域を持っている。このいわば「直轄領」では、敵対する治安機関などは存在しないので、ISは好き勝手な行動がとれる。また、ISがイラク政府やシリアの敵対勢力と領土の争奪戦を行っている地域では、軍事的な戦闘行為が行われている。これは前述したように一般的な意味での「テロ」とは異なる。

ISは、イラクやシリアの「直轄領」内では敵からの攻撃を排除し、直接支配を維持することを優先している。これらの地域では、指導者の暗殺や政府施設・治安部隊に対する爆弾テロに加え、製油所や油田その他の戦略的に重要なインフラ施設を襲撃して占拠するなど、組織的で大規模な攻撃を行う可能性がある。

また、現在の「直轄領」の防衛上、戦略的に重要な拠点を確保するためにも、隣接する地域や国でイスラム教スンニ派とシーア派の宗派抗争を煽り、分裂を促すことで自分たちの影響力を増大させ、支配領域の拡大を狙っている。

スンニ派とシーア派の宗派抗争が激化すれば、スンニ派の人々がシーア派の過激派勢力に弾圧されたり襲撃されたりするリスクが高まる。自然とスンニ派の人々の間でシーア派不信が強まり、シーア派の過激派を打倒してほしいという願望が強まる。こうした条件が揃えば、ISのようなスンニ派過激派がスンニ派地域で活動できるチャンスが広がる。

次にそれよりも少し離れた中東、アフリカ諸国では、現地のイスラム過激派組織と同盟・連携を強化し、それぞれの国で「イスラム国」の名の下でテロ活動を活発化させ、領域支配をさせる「フランチャイズ化」を進める戦略をとっている。

イエメン、サウジアラビア、トルコ、エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、ナイジェリア、中央アジア、アフガニスタン、パキスタン、インドなどがこの戦略が適用される国々だ。

この第一弾がリビアだったが、今後はさらに多くの国々で、「フランチャイズ化」が進められるだろう。

この地域のISのフランチャイズ組織は、直轄領で本丸のISが行う程の軍事攻撃はできないものの、油田やパイプライン・製油所を破壊したり、警備の行き届いたホテルに押し入って要人を誘拐するなど高度で組織的なテロ攻撃を実施する能力を持っている。治安機関に匹敵するような訓練された武装集団が、組織的な攻撃を仕掛ける可能性があるため、こうした地域で活動するには、高度な警備が不可欠になる。

最後にそれよりも遠い欧州や北米それに日本などの先進国では、2015年1月にフランスのパリで起きたような個人や非常に少人数のグループによる「一匹狼型」のテロを促す戦略をとっている。

とりわけISに対する軍事作戦に参加している国々に対しては、「罰を与えて人々に恐怖心を植え付ける」ためのテロを呼びかける。テロが発生した際には、最大限宣伝に利用するという作戦をとっている。

カフェやレストランで小銃を乱射したり、警察官を襲ったり、食品店に人質をとって立て籠もるといったタイプのテロが中心になる。組織的なテロに比べ一般的に脅威のレベルは低いが、パリの事件のように中東で軍事訓練を受けたテロリストの場合、少人数でも高度な攻撃を実行できるため注意が必要である。