現代新書
日本でも必ず起こる
テロに遭遇! その瞬間、どう行動するのが「正解」か

何が生死を分けるのか
銃が乱射されたチュニスの博物館〔photo〕gettyimages

文/菅原 出(危機管理コンサルタント)

テロリストは必ず事前偵察する

2014年12月に、イスラム過激派組織「ムラビトゥン」の指導者モフタル・ベルモフタルが、『作戦事後報告書』を公開して話題を呼んだ。

ベルモフタルとは、2013年1月にアルジェリアのイナメナスにある天然ガス施設を襲撃したテロの首謀者であり、この文書は、そのテロ攻撃に関して、ベルモフタルのグループが、テロの実施段階を振り返り、作戦から得た教訓をまとめた報告書だった。

この報告書は、他のイスラム過激派組織に対して同様のテロを実施することを促す目的で書かれており、事前の計画、武器などの事前集積、攻撃に参加した戦闘員たちの訓練方法などについて詳しい説明がなされている。

また、ベルモフタルの組織が何段階にも分けて現場の下調べを行っており、組織のメンバーがイナメナスの現場内部にスパイとして浸透し、現場の警備体制や警備員のシフトのタイミングなどの内部情報をとっていたことも明らかにしている。

実際、攻撃を行ったタイミングは、「現場に西側のマネージャーや専門家が最も多く集まっている時」だったからだと述べている。

この報告書の内容がどこまで正しいのかの判断はできないが、テロ組織は一般的に事前に入念に情報収集をし、綿密な計画を立ててからテロ攻撃を行う。逆に言えば、計画性のない攻撃であれば、ミスも多く脅威のレベルも低いのでそれほど恐れる必要はない。

テロリストたちは、事前に時間をかけて準備をするが、その準備に不可欠なのが、現場の下調べである。ベルモフタルのグループも、「何段階にも分けて現場の下調べを行った」と報告している。

誘拐犯などもそうだが、テロ組織が襲撃などを計画的に行う場合、ターゲットの行動パターンを知り、どの瞬間が襲撃に適しているかを調べる。これは攻撃計画を立案する上で不可欠な情報だからである。

2015年3月にチュニスの博物館が襲撃されたテロの際も、実行犯の二人は、事件発生の20日程前から現場周辺を下見し、近くのバス停やカフェに長時間滞在していたことが分かっている。

また実行犯の一人は、犯行の24時間前にも現場を訪れ、警察官の数やシフトの交代時間など、警備体制を入念に調べていたことが分かっている。おそらく事件が起きてから、周辺の監視カメラの記録を調べたらこうしたことが分かったのだろう。

優秀な警備スタッフがこうした事前の偵察を見破ることができれば、テロを未然に防げたかもしれない。最近では何度も現場を訪れる不審な人物を特定してアラートを出す機能のついた監視カメラも存在するので、そうした最新技術があれば、こうした事前偵察を早期に察知する可能性が高まる。

いずれにしても、テロリストは必ず事前に現場の下調べを実施するので、その時が彼らの計画を見破る最大のチャンスなのである。

テロリストの偵察を見抜く特別な訓練も存在するが、重要なのは一人ひとりの直感である。自宅や会社の近くに同じ車が停まっていないか。不審な車などに追尾されていないか。写真を撮っている不審者がいないか。不審な電話がかかってきていないか。

「あれっ? いつもと違う」と感じたら、その直感に従って警戒態勢をとることである。おかしいと感じたらいつもの行動を改めて警戒していることを示したり、臨時で警備をつけるなどして、こちらが警戒していることを見せることが大事である。そうすればテロリストたちは、偵察が見破られたとして、テロの実施を見送ったり、別のターゲットに変える可能性が高まる。

そんなのは警備員の仕事だと考えるかもしれない。しかし、警備スタッフだけが注意するのと、オフィスのスタッフ全員が注意するのでは、テロの兆候を発見する確率は後者の方が圧倒的に高い。

スタッフ一人ひとりが、「自分の安全は自分で守る」という意識を持って、何か異常を感じたら報告し合う習慣をつけることが、テロリストたちの計画の発見に繋がるのだ。