現代新書
ネットフリックスが起こす現在進行形の革命〜「見放題」時代のテレビ、覇権を握るのは誰か?
テレビメーカーはリモコンに「ネットフリックス」ボタンをつけはじめた

「つながっていないテレビ」などありえない!

2015年1月。アメリカ・ラスベガスでは、世界最大の家電展示会「インターナショナルCES」が開かれていた。

CESの開催前日には、大手家電メーカーがプレスカンファレンスを開催していた。家電の王様としての地位をスマートフォンに奪われたものの、家電メーカーにとって「テレビ」はいまだ大きな存在だ。特にCESのような場では、自社の技術力と先進性をアピールするものとして、テレビはきわめて重要な意味を持つ。

現在なら、より高い解像度を持つ「4Kテレビ」がいかに素晴らしく、そこでの体験がいままでのものといかに異なるかを知らしめることが、テレビメーカーにとって最大の問題となっている。

そんな場に、大手メーカーがこぞってゲストに呼んだ企業がある。世界的テレビ大手のなかで、日本のソニー、パナソニックはもちろん、韓国のサムスン電子、LGエレクトロニクスも、テレビの説明で彼らを壇上に招いた。しかも、最上位のパートナーとしてだ。

その企業の名は「ネットフリックス」。いまやアメリカ市場において、ネットフリックスを無視したテレビ作りはありえない。パナソニックでテレビ開発を担当するテレビ事業部事業開発部の池田浩幸部長は、アメリカのテレビの状況をつぎのように説明する。

放送によるテレビ視聴は1日に4〜5時間。それに対して、『ビデオ・オン・デマンド(VOD)』の利用時間も、1日1時間くらいにまで育ってきている。ネットフリックスのようなサービスが普及した国では、放送局の1チャンネルかそれ以上の重みを持っている

ネットフリックスは、インターネットを介して映像配信をおこなう会社である。自分で見たい番組を選んで見るタイプの映像配信をVODと呼ぶが、ネットフリックスは世界最大のVOD事業者だ。

VODは日本にもあるが、日常的に使っている人はまだ少ないだろう。ホテルのテレビにあるもの、というイメージの人も多いかもしれない。

アメリカでは、有料の衛星放送・ケーブルテレビの普及にともない、1980年代から、家庭でもポピュラーな存在である。特に、注目されるスポーツイベントでは利用が多い。2015年5月におこなわれた、プロボクシングのフロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオ戦は、VODだけで3億ドルの収入があったと言われている。

だが、ネットフリックスが手がけているVODはもう少し日常的なものだ。対象は、映画とドラマ、そしてドキュメンタリー。これまでならレンタルビデオ店に並んでいたような作品が、ほぼすべて網羅されている。

アメリカで販売されるテレビ、ゲーム機のほとんどにネットフリックスの視聴機能が内蔵されていて、機器をネットに接続するだけで簡単に使える。リモコンの十字ボタンで見たい映像を選び、「決定」で再生するだけのシンプルさである。

アメリカで販売されるテレビの多くには、「ネットフリックス」ボタンがある。衛星放送を見るときのように「ネットフリックス」ボタンを押せば、視聴がはじまる。

その流れは日本にも波及し、2015年に入ってから、ネットフリックスがサービスをはじめる前にもかかわらず、テレビメーカーはリモコンに「ネットフリックス」ボタンをつけはじめた。背景には、ネットフリックスがテレビメーカーにしかけた共同キャンペーンの存在があるのだが、それでも、メーカーとして普及に期待していなければ、リモコンの一等地を分け与える必要はない。

支持されたのは、操作のシンプルさだけが理由ではない。支払い方法も恐ろしくシンプルだ。

ネットフリックスの支払いは月額固定制。アメリカの場合、最低7.99ドルですべての映像が見放題になる。何本、何回見ても追加料金は発生しない。日本の場合には650円(税別)からで、画質や同時視聴可能な端末の数により3つの料金バリエーションがある。こうした定額制のVODを、サブスクリプション(定期購読)型ビデオ・オン・デマンド、通称「SVOD」と呼ぶ。

テレビのなかにレンタルビデオ店が現れたような存在。それがネットフリックスだ。2007年にいまのかたちでのビジネスをスタートすると、アメリカ市場では熱狂的に受け入れられた。2015年6月末の、アメリカでの会員数は約4230万人。世帯普及率でいえば約35パーセントにあたる。

そうした数のインパクトは、インターネット網の利用量にも反映されている。統計によってもデータは異なるが、現在アメリカでは、プライムタイムには、インターネットを流れるデータ量の30パーセントから35パーセント程度が、ネットフリックスから家庭に送られる映像データの配信に使われているという。この値は、ビジネス、ネットショッピング、音楽、ゲームなどあらゆる種類の、あらゆる機器での通信を総合してのものだ。

家庭の4割が契約し、ネットのデータ量の4割近くを占める、テレビ放送と並ぶ巨大なエンターテインメント・ネットワーク。それこそが、ネットフリックスの正体である。もはやアメリカでは、ネットフリックスがないテレビは考えられない。

アメリカでのテレビのネット接続率は、家電メーカーからの情報を総合すると、おおむね70パーセントから80パーセントのあいだと見られている。その目的は、ほとんどがネットフリックスに代表されるSVOD、もしくはYouTubeの利用である。テレビメーカーとしても、ネット配信の巨人として、ネットフリックスの価値を無視しえない状況にある。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら