賢者の知恵
2015年12月30日(水) 河尻亨一,加島卓

デザイナーをアーティストに変えた広告業界の罪〜日本のデザインはこれからどうなる?

五輪エンブレム騒動から考える

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GettyImages

盗作疑惑が浮上して白紙撤回になり、その審査過程にも不正があったとされる東京五輪・パラリンピックエンブレム。この騒動は、デザイン・広告業界が根本的に抱える構造的問題や社会の要請とのズレを明らかにしたとも言える。

同じようなことが起きないように、時代や社会に求め続けられるように、これからデザイン・クリエイティブ産業はどうすればいいのか?

デザインや広告表現を専門とする編集者・河尻亨一氏と、広告やデザインを対象にした社会学やメディア論的な研究をする加島卓氏が、「デザイン・クリエイティブ産業のこれから」を考察する――。

デザインが「機能」ではなく「芸術」と捉えられた時代

河尻 「五輪における価値観の変化」(前編)「旧エンブレム審査の何が問題だったのか?」(中編)というふたつのトピックをへて、最後に「デザイン・クリエイティブ産業のこれから」というテーマでお話してみたいです。

この騒動を受けて、私なりに考えさせられるところが色々あったのですが、ひとつ思ったのは、デザインを含めたクリエイティブ業は、昔のようにもっと独立したポジションを築いていったほうがいいんじゃないかということです。

これはかなり前から議論されてきたことで、実際2000年頃から、多くのクリエイターが広告会社から独立していったという流れもあるのですが、それでも産業構造的に広告会社の力が強すぎるという現状があります。

各種デザイン団体、広告クリエイティブ団体のあり方も、その運営が「なあなあ」になってしまっているのであれば、これを機に見直されたほうがよいのでしょう。すでに若手にはあまり魅力的に見えていないわけですから。

かつて相当の社会的影響力を誇った日宣美(日本宣伝美術会)というデザイナー団体が時代の変化の中で崩壊してしまったように(1970年)、何も手を打たなければこれらの多くも解体に向かうと予想されます。

加島 「登竜門」などでベテランが業界の新人を承認するのとは別に、ソーシャルメディアでユーザーからの承認を調達できてしまえるという評価方法の多元化はありますね。個人でいろいろできるようになったなかで、専門家としての共同性をどのように担保するのかは、業界団体の課題でしょうね。

河尻 こういったシステムは人材をプールしたり仕事を回すという意味では効率的な面もあるのですが、制度疲労に陥っているところもあります。クリエイティブにとって一番重要なのはやはり多様性ですが、時代の変化の早さもあって、いまのビジネス構造ではそこが担保しきれない気もします。

私が言っているのは理想論でもあり、「表現で食っていく」ためには、なんらかの形でそことのつながりを持たないと厳しい現状だなというのが、多くのクリエイターにとっての本音かもしれませんが。

いずれにせよ、そういったことを考える際に、加島さんが書かれた『〈広告制作者〉の歴史社会学』は大変興味深い著作で、いま我々が自明のものとして受け取っているその「システム」も、戦後の経済発展の過程で“作られて”いったものだということがわかります。グラフィックデザイン団体と広告会社の関係性の変化も、詳しく書かれています。

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