格闘技

井上尚弥は「世界最高のボクサー」になれるか?ローマン・ゴンザレスとの一戦を徹底シミュレーション

父が語り尽くす
井上 真吾

肉体を進化させなければ勝てない

ロマゴンは世界のあらゆる場所で、あらゆるタイプの選手と戦った経験があります。アマチュア時代の実態がわかりませんが、プロになってからダウン寸前まで追い詰められたことはないようです。

尚もまたそうです。血まみれになるまで殴られたことはなく、ダウン寸前まで追い込まれたこともありません。疲労のあまり目がかすみ相手のパンチが見切れなくなるような苦境へと追い込まれたこともありません。皆さんがボクシングの試合でよく見かけるような、目の上を切って血で視界がふさがれることさえありません。

ロマゴンとの試合となれば、疲労とダメージの蓄積で脳が働かなくなって自分の指示も届かなくなるような状況もあり得るでしょう。理性が失われ本能に任せた尚がどんな動きを見せるのか。極限状態のときにどういう姿を見せるのか、自分にも見当がつきません。瀬戸際での精神力については、大橋会長が現役時代を振り返り、こう説きます。

「ピンチになったら相手にしがみ付いてでもダウンを免れる。そういうことも大切だ」

尚もいろいろなことができないと、やはり戦うのは厳しいと思います。土台となる肉体を進化させることから着手します。身体の機能がアップすると、当然、テクニックも進歩しやすくなります。そうすればメンタルでも余裕が生まれます。そのための準備の時間が一年はほしいです。

一番強くなるのは、身体、頭、経験などを踏まえて23~25歳くらいかなと思います。そこでやるのが一番自信が持てますが、ファンがそこまで待てないでしょう。尚もまた待てないと思います。大橋会長がロマゴン戦前に八重樫選手にこう言っていました。

「同じ時代にここまで強い選手がいることは幸せなこと」

ロマゴンは今、全盛期です。そういう選手から逃げるのではなく、迎え討つ。衰えるのを待って勝負を仕掛けて「あのロマゴンに勝った」では賞賛は得られません。

尚からも「戦いたい」という気持ちが伝わります。ファンから尋ねられたときも、「八重樫さんの借りは返したい。受けて立つ用意はある」「勝てる、とすぐにわかるような選手よりも、ゾクゾクするような相手とやりたい」と応じています。

じつは試合後に二人はヒソヒソと話し合っていました。マスコミが控え室から去り、八重樫選手がシャワーを浴びて着替えようとするときに尚の姿を見つけると手招きしたのです。ロマゴンと拳を交えた直後ということで、尚に伝えたかったことがあったようです。