賢者の知恵
2015年12月29日(火) 河尻亨一,加島卓

「五輪エンブレム調査報告書」専門家たちはこう読んだ
~出来レースではなかった…その結論、信じていいのか?

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Photo by GettyImages

2015年12月18日、白紙撤回された五輪・パラリンピック旧エンブレムの選考過程における不正を調査した報告書が発表された。組織委員会は公募発表前に、佐野研二郎氏を含むデザイナー8名に参加要請をしたことが明らかになっていた。

なぜ事前に8名に参加要請をしたのか?“出来レース”ではなかったのか?そんな疑いを持って行われた調査。報道の多くの見出しには「不正審査」の文字がおどったが、果たしてその真相は?

デザインや広告表現を専門とする編集者・河尻亨一氏と、広告やデザインを対象にした社会学やメディア論的な研究をする加島卓氏が「調査報告書」を読み解きながら、デザイン業界の構造問題に迫る―。

クリエイティブ・ディレクターとは一体何者なのか?

河尻 先日、発表された審査過程の不正問題に関して。多くの記事の見出しに「不正審査」の四文字がおどってましたが、これは「八百長」といった話でそう単純に片付くものだろうか? と感じる面もあります。

調査委員会は、「本件がいわゆる“出来レース”ではないかという疑いを持って調査に当たった。その結果からは、そのような事実は認めることができなかった」(調査チームの和田衛氏)と判定しています。このポイントにふれた報道は意外と多くありません。一次審査における審査委員代表(永井一正氏)や当時の組織委クリエイティブ・ディレクター(高崎卓馬氏)による“不正投票”は、旧エンブレム案への決定そのものに影響しなかったことも明らかにされました。

とはいえ、不正は不正です。私のように、取材を通じてその方々たちの卓越した才能や優れた人間性に接して来た者にとって、極めて残念な報告です。

なぜ、事前に8人のデザイナーに参加をうながすような文書を送ったのか? 一次審査で落選していたはずの2案(※佐野案以外のもの。2案とも二次審査で落選)に、なぜ審査委員代表が下駄を履かせたのか? 公募コンペという枠組みの公平性を考えると、いずれもあってはならないことでしょう。調査委員会の発表に関して、加島さんはどういうご感想を持たれましたか?

加島 『東京新聞』が丁寧にまとめているように(http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/tokyo_olympic2020/list/CK2015121902100003.html)、①審査委員代表の意向で組織委員会が佐野氏を含む8名に公募への参加要請をした点、②組織委員会が審査委員全員に参加要請した8名の特別扱いをメールで説明した点、③審査委員も兼ねているクリエイティブ・ディレクターに組織委員会が8名の作品リストを送付した点、④エンブレムの修正作業をマーケティング局長、クリエイティブ・ディレクター、佐野氏の三名で進めてしまった点が「不適切」なところです。

また今回「不正」とされたのは、審査委員代表、マーケティング局長、クリエイティブ・ディレクターが投票状況を調整して、事前に参加要請した8名の一次審査通過を決定した点です。

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