現代新書
「人材派遣業」の闇〜あまりにブラックすぎる実態を潜入レポート
〔photo〕iStock

日本の労働市場に寄生し、ピンハネで肥え太る悪質な人材派遣業者。彼らの増殖と繁栄は、底辺の労働者のさらなる困窮と表裏一体である。知られざる人材派遣業界の闇と、「一億総活躍社会」を掲げながら平然と労働者をモノ扱いしつづける政府・厚労省の欺瞞を暴く。

文/中沢彰吾(ノンフィクションライター)

口をつぐんでうつむく500人の中高年

「静かにしろ! 私語厳禁だ」

やせて神経質そうな銀ぶちのメガネをかけた、長身のダークスーツ姿の若い青年の怒声が超高層ビル街の谷間に響いた。彼の前に並んだ普段着姿の中高年の男女はそれまでにこやかに世間話を楽しんでいたが、叱られた子供のように口をつぐんでうつむいた。

相手は自分たちの息子のような年齢だが、青年のご機嫌を損ねてはいけないと誰もがおどおどしていた。

2014年12月1日、西新宿にある住友ビル前の広場には異様な光景が広がっていた。小学校の朝礼よろしく整列させられた500人ほどの中高年たちを数十人の若い男女が監視している。彼らは銃や鞭こそ持たないが時折発する叱責の声は厳しく、北朝鮮の集結所(強制収容所)を彷彿とさせる光景だった。

間もなく中高年の集団は40階にある広大なオフィスに移動させられ、約50人ずつの島に分けられた。およそ100人の監視役の若者たちが島の周囲を囲んで立ち威圧的に見張る。

ものものしい雰囲気の中、業務研修が始まった。マイクを持った説明役の女性が電話のかけ方をレクチャーし、その指示に従って全員で唱和する。ニコニコしているだけで口を開けていなかったりよそ見をしていたりすると監視役に目ざとく見つけられて叱られる。

私の隣に座った62歳の男性は化学メーカーの元エンジニアで、電話でしゃべるのが苦手な人だった。一方、私は放送局でアナウンサーとして勤務したことがあり、しゃべりの専門的な訓練を受けている。彼に発声法や間の取り方、受話器の向こうの相手の気持ちをほぐす言い回しなどをアドバイスしていると、監視役の若者が間に割って入った。

「何をしている」

「いや、この方に教えてあげていたんですよ」

「指導するのは我々だ。勝手なことをするな」

彼らからわたされた薄っぺらな話し方マニュアルは素人が思いつきで書いたとしか思えない稚拙なもので役に立ちそうもない。監視役の「指導」とはそのマニュアルを読んで聞かせるだけだった。