若者の自殺者年間6500人
〜友人に深刻な悩みを相談されたらどうする?

「助けて」と言えない命を支えるために
撮影:安田菜津紀

12月の夕暮れ、頬を掠めていく風が冬の気配を強めている。かじかむ手をポケットにしまい、踏切が開くのを今か今かと待っていたときのことだった。けたたましく鳴り響くその踏切のすぐそばの、小さな看板が目に留まった。

「心の痛み 話せる電話です」

自殺予防のための「いのちの電話」の番号が書かれた看板だった。一瞬どきりとして、頭が真っ白になった。そしてこれまで、自ら命を絶っていった友人たち、知人たちの顔が頭を過った。

彼らのことを、ここでも、そして人前でも、公の場で語ることはできずにいる。なぜなら家族や身近な人たちが、それを望まないことが多いからだ。それは尊重されるべき感情であることに変わりはない。

けれどもこの悔しさを繰り返さないために、大切な人にどんな風に寄り添ったらいいのか、それを誰に尋ねればいいのだろう。そして整理さえできないままのこの感情の波を、誰に打ち明ければいいのだろう。

「助けて」と言えない人の身近な人を支える

今20代の最も多い死因が自殺だということをご存じだろうか。若年者(30代以下)で亡くなる人のおよそ半数近くの死因は自殺で、その数は年間6500名となる。

そんな若者の自殺問題に取り組んでいるのが、NPO法人LightRing(ライトリング)だ。このNPOの取り組みの特徴は、悩みを抱えている本人ではなく、その身近な人、友人や恋人、家族たちが、立場を超えて集う場を築いていることだ。

全国にある「いのちの電話」など、悩みを抱えている人々の窓口は複数存在している。そんな中でなぜ、本人ではなく、身近な人を支える仕組みを築いているのだろうか。

「若者、特に男性は、支援機関につながらず一人孤立してしまうケースが最も多いとされています。自殺対策白書を見ていくと、亡くなった方の7割はどの相談機関にもつながっていないことが分かります」。

そう語るのはライトリングの代表理事を務める石井綾華さんだ。

「助けて、と言えない。自分は助けられていい存在だと思えない。相談先に赴いたとしても、どんな効果があるのか見込めない、というケースもありますし、そういった場に赴くと自分に敗北感を覚えてしまう、ということも大きな壁となっています」。

一方、開かれた相談機関やカウンセリングまで手が届かなくても、友人たちに気持ちを打ち明けていることはあるという。内閣府の青年期意識調査によると、悩み事を誰に話しているか、という調査では、回答が最も多かったのが友人(53%)だった。

「けれども打ち明けられた方はどうしていいのか分からない、今度は彼らが悩みを抱えてしまいます。それによって、共依存、共倒れというより苦しい状況が生まれてしまうことがあるんです」。

一対一の関係の中だけでその悩みを共有するとき、本当にこの態度でいいのだろうか、本当にこの言葉をかけていいのか、自信が持てなくなってしまうことが私自身も多々ある。だからこそ今の人間関係の中で、本人も周囲も少しずつ楽になっていけるような関係を築くことが重要なのだと石井さんは語る。

専門家になるわけではないけれど、身近な人として役に立てるように。そんな理念の元、ライトリングでは4つの“ソーシャルサポート力”を培う講座を開いている。支える側が共倒れしないためのセルフケア、近すぎる・遠すぎるなどの距離感を調整する力、相手の話を聴く力、そしてそれぞれのケースに応じて専門機関につなげる力。更にその講座の参加者や、身近な人に悩みを打ち明けられた人たちが、“ライトリングタイム”と呼ばれる場に集い、ケースワークなどを行っている。

ライトリングタイムの様子

「例えば“深夜2時に友人から悩みのメールが来たらどうする?”など、具体的なケースを想定して進めます。“よかったら1時間だけ電話しようか”、と時間を決めて話をするという人もいれば、“明日会ったときに、話を聞かせて”と、次につなげる人もいます。かける言葉や行動に正解はないけれど、一つのケースを巡ってコミュニケーションを重ねることによって、“そういう声のかけ方もあるんだ!”という新しい視点が生まれていくんです」。

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