長いシーズンを終えた指揮官は、わずか一日の休みを挟んで、再び動き始めた。
「優勝請負人」と称される、男の勝負哲学に迫る。
日本一のチームを託されるのは重圧以外の何物でもない。勝って当たり前、負ければボロクソだ。
昨季、3年ぶりに日本一を奪回したホークスの指揮を委ねられた工藤公康は、就任会見で、当然のごとく連覇を宣言した。
ホークスのOBとはいえ、話したことのない選手がほとんどだ。選手の年齢は自分の娘や息子とかわらない。
上から命じるだけでは、今の選手は動かない。連覇を目指す上で52歳の指揮官が何よりも重視したのが選手との対話である。
「僕の場合、ピッチャーのことはわかりますが、野手については正直言ってよくわからない。まず打順を組むにあたって、中心となる4番をどうするか。それがキャンプでの最初の仕事でした」
4番候補は3人いた。昨季の4番・李大浩、7年連続打率3割以上の内川聖一、そして進境著しい柳田悠岐。それぞれに「4番観」を訊ねた。
「まずは柳田ですが、『4番は特別』という意識を持っていました。李大浩は重圧を感じていたのか、『5番がいい』と言いました。残るは内川。『僕は4番でも自分のバッティングを変えません』と。これは任せられると判断して彼を4番にしたんです」
シーズンに入ってからの打順は3番・柳田、4番・内川、5番・李。これに6番・松田宣浩、7番・中村晃と続く打順は12球団随一の破壊力を誇った。押し付けではなく、話し合いによって組まれた打線だった。
一度、決めたことは簡単には覆さない。それが工藤流である。決定打を欠いても、ここは我慢と腹をくくった時期もある。