ミュージシャン・早川義夫さんの「わが人生最高の10冊」

「俺だけにしか分からない」と思わせる作品の醍醐味
ミュージシャン・著述家の早川義夫さん

ここに挙げたのは、20歳の頃に手にした川端康成や江戸川乱歩、つげ義春を除くと、'70年に歌手をやめて、本屋をしていた40代で読んでいたものが中心です。

1位の『小林秀雄講演』は新潮社が出しているCDです。図書館にあったカセットを借りて何度も何度も聴いていたもので、CDが出たときに全巻買い揃えました。

小林秀雄の評論は文章だと難しかったりするんだけど、話しているのはすごくわかりやすい。たとえば第7巻の「ゴッホについて」は、〈今、文学と言えば、まあ小説ということになっておりますが、昔は小説と言えば、くだらないものだったんです〉と始まる。文学の講演会なのに笑い声が起きるんです。

「ショクンはね」と語りかけながら、全然エラそうじゃない。落語みたいに間が絶妙で、すっと引き込まれてしまう。

ゴッホは膨大な手紙を弟に書き送っているんですが、小林秀雄はその手紙をもとに「個性とは何か」を考える。〈鼻が高いとか容姿がどうだとか、ひとと比べてちょっと変わっているくらいのことは個性でもなんでもない〉と言うんです。

もって生まれた負を克服し、乗り越える精神が「個性」なんです。芸術についても「自分と戯れているか、闘っているかで作品の良し悪しがわかる」というようなことを語っている。うなずかされるところが多く、ノートに書き起こしました。

僕にとっては音楽のように聴こえる。小林さんが正宗白鳥との対談を振り返るエピソードがあるんですが、後日、白鳥先生から「この座談会、内容浅薄なり」と一筆されたゲラが回ってきた。自分も「浅薄」だと思い、本にするのは中止だと言って編集者をあわてさせる語りが面白い。第2巻では質疑応答があって、「いい質問をすれば、もう答えはいらないんです」という思想もいいな。