現代新書
中東をテロ発生源に変えたのは誰か〜「石油・武器・麻薬」という三大タブーを直視せよ
カリフォルニアでの銃乱射テロ後、アメリカの都市では警戒態勢が強化された。2015年12月7日、ニューヨーク〔photo〕gettyimages

世界はいま、暴力が暴力を呼ぶ悪循環に陥っている。もはや武力で平和を取り戻すことはできないことはハッキリした。では、どうすればテロを終わらせることができるのか? 何がここまで事態をもつれさせたのか?

事の根本にあるのは、石油、武器、そして麻薬をめぐる巨大なマネーの流れだ。

まもなく緊急発売される宮田律氏(現代イスラム研究センター理事長)の最新刊『石油・武器・麻薬ーー中東紛争の正体(講談社現代新書)より、まえがきを特別先行公開!


2015年10月、ヨルダン川西岸を訪問する機会があった。エルサレム旧市街を歩くと、ダマスカス門の前にはゴム弾銃などをもったイスラエル兵がいて、ものものしい。筆者が訪れた前週、前々週とパレスチナ人の二人の青年がこの門の前でイスラエル兵に銃殺されたためだろう。

ムスリム地区を歩くと、閉じられたままの商店がまた増えたことに気づいた。

エルサレムにあるイスラムの聖地「ハラム・アッシャリーフ」内部でも、軍兵士や警官が警備を行っていたが、重武装した彼らを見ると、政治的に静かにならざるをえないパレスチナ人たちの日々の息苦しさ、怒り、切ない想いなどがあらためて感じられた──。

イスラム・ユーラシアの地殻変動

2015年11月、フランス・パリで発生した同時テロに象徴されるように、いま、ユーラシアを基点に広がるイスラム世界は、重大な「地殻変動」の中にある。

2014年6月、武装集団の自称「イスラム国」(IS=Islamic State)がイラク北部のモスルを制圧すると、これに危機感を覚えた米国は、イラクでは欧米諸国を中心とする有志連合で、シリアではアラブ諸国の軍隊と連携して、ISへの空爆を行うようになった。

イラクもシリアもイスラム世界の中心に位置し、かつてはアッバース朝(750~1258年、首都バグダッド)やウマイヤ朝(661~750年、首都ダマスカス)というイスラム帝国の繁栄を享受したところである。

イスラムの預言者ムハンマドが生まれたアラビア半島は、現在、世界の重要な産油地帯であり、日本も原油輸入の80パーセント以上をこの地域に依存している。だからこそ、中東各国の政治の動きや、諸外国によるそれへの関与は、日本にも重要な影響をおよぼすことになる。

戦後日本の安全保障をめぐる議論が、この地域の事態に関連して多く語られたことは、1991年の湾岸戦争での掃海艇派遣や、2001年から10年まで継続した海上自衛隊の補給活動などのケースを見ても明らかだろう。安倍晋三政権による「集団的自衛権」の提唱も、日本が原油を購入するペルシア湾での機雷掃海や、日本のタンカーの海路の防衛などが主要な議論の対象となっていた。

米国は2003年のイラク戦争を経て、2011年にイラクから撤退し、イスラム世界におけるその政治的影響力を低下させつつある。また米国内でもシェールエネルギーの開発により、ペルシア湾岸地域で産出される石油の重要性は低下したといえる。