現代新書
シャレにならない介護危機
〜急増する「老人ホームもどき」、行政は見て見ぬフリ

知られざる介護現場の実態
〔photo〕gettyimages

昨今、「高齢者向け」と謳いながら、自治体に対して無届けのまま運営する「老人ホームもどき」(無届け介護ハウス)が後を絶たない。

厚生労働省によると、その数は全国で961ヵ所(2014年10月末現在)。「空き家や賃貸マンションがあるから高齢者に貸したい」などと、安易な発想で始めようとする傾向があるという。

だが、無届けのままだと、虐待などが起きていても発覚が遅れたり、不正請求の温床になったりしかねない。いままさに危機に瀕している介護現場の実態と、無届け施設の弊害をレポートする。


高齢者虐待防止法に抵触

2015年2月17日──。この日の夕方から夜にかけて放映されたニュース番組の映像は、社会に衝撃を与えた。

そこは東京都北区にあるシニアマンションの一室。介護ベッドに横たわる高齢者の胴体には太いベルトが巻かれ、身動きできないよう固定されている。居室のドアは外側からつっかい棒があてられ、壁には「24時間ドアロック」と書かれた張り紙が見える。居室に出入りするヘルパーへの注意事項だ。

「入居者の一部に対する行為が、高齢者虐待に該当すると認め、改善するよう法人代表者に通知しました」

前年11月に朝日新聞の報道を受けてマンション内部を調査していた北区が同日、記者会見を開いて、マンションで入居者がベッドに縛り付けられるなどの虐待を受けていたと公表するや、そのニュースはテレビや新聞で大きく報道され、またたく間に全国に知れ渡った。

マンションは同区にある「医療法人社団岩江クリニック」が、不動産会社らと組んで運営しており、クリニックの周辺に3ヵ所ある。入居者数は計159人にのぼり、おもに「要介護4、5」の寝たきりなど重度の要介護者が暮らす。胃ろうなどの経管栄養やがん末期など、医療依存度の高い要介護者が中心だ。

不動産会社らが入居者に部屋を貸し出し、法人は訪問診療(在宅医療)をはじめ、訪問看護・介護サービスなどを提供。ケアプランも、法人のケアマネジャーが作成していた、いわば「囲い込み」である。

法人関係者の話によると、入居費は家賃3万円のほか、食費や介護費、医療費などで平均10万円程。一時金はいらない。都内でこの料金は格安だが、介護保険や医療保険から多額の報酬を得ることで成り立っていた。

北区は同年3月までに、「入居者の計99人(障害者虐待防止法による認定も含む)に虐待があった」と認めた。

* * * 

「マンションは四畳半程度の個室か相部屋で、入居者のほとんどが寝たきりでした。ベッドは四点柵で囲われて一人では下りられないようになっています。なかにはミトン型の手袋をはめられ、つなぎ服(自身で脱ぎ着できない拘束着)を着せられている人もいました」

かつて同マンションを見学したことがある介護関係者は、内部の様子をこう語った。

これらの行為はいずれも高齢者の行動の自由を奪う「身体拘束」とされ、高齢者虐待防止法に抵触するだけでなく、介護保険法でも禁止されている。緊急やむを得ない場合は例外的に認められるが、「切迫性」「非代替性(他に方法がない)」「一時性」という三要件を満たした場合に限られている。

筆者の取材に応じた法人の元職員は、北区から虐待と認定された身体拘束はかなり前から行われていた、と証言する。

「ベッドから寝具や身体がずり落ちるのを防ぐため、四点柵は当たり前のように付けていました。つなぎ服も、経管栄養のチューブを引き抜くのを防ぐために常時20~30人ぐらいに使っていた。なかにはオムツに手を入れて便をいじり、周囲を汚す入居者もいます。それに対応していたら、決められた時間どおりにサービスは終わらない。拘束するのは申し訳ないとは思ったが、正直、助かっていたのも事実です」

マンションでは法人のケアマネジャーが作成したケアプランに基づいて、決められた時間にヘルパーが居室に出向き、一回30分または60分のサービスを一日三回程度提供するのが基本だったという。介護施設のように常時職員がいるわけではなく、マンションの居室を自宅とみなし、そこにヘルパーらが訪問する形態をとっている。

「時間どおりにサービスが終わらないと、次の利用者にしわ寄せがいきます。それに、時間を超過しても入居者に追加費用を請求していませんでしたから、コスト面でも(身体拘束は)助かっていたようです」

ヘルパーは決められたスケジュールをこなすため居室を次から次に訪問しなければならず、身体拘束は予定外の突発的な事態を避けるための手段としても使われていたようだ。

医療法人は北区が認定した身体拘束の事実は認めつつも、医療用のチューブを抜いてしまう恐れがあるなどの理由で「医師が療養上の必要性から行わせているものである」と主張して、ヘルパーらの関与を否定していた。

だが、北区が虐待認定した同日、介護事業所を監督する東京都は、法人が運営する居宅介護支援事業所(ケアプランの作成機関)と訪問介護事業所に対し、「三要件について慎重に検討することなくサービスを提供していた」として、早急に改善を求める勧告を出した。

たとえ医師の指示があったとしても、介護保険下でサービスを提供するケアマネジャーやヘルパーが関わっていることから、それぞれが専門的な視点で三要件を踏まえて身体拘束が必要か判断し、その内容を記録に残しておく必要があるが、「そうした実態は見あたらなかった」(東京都指導監査部指導第一課)とのことだった。

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