「母はわたしを愛さなかった」
その事実を受け入れ過去を手放した、ある女の告白Ⅲ

あれはしつけではなく「虐待」だった…
(PHOTO〕iStock

安田加奈(仮名)。47歳。独身。都内の小さな音楽事務所に勤めている。人口5万人ほどの中国地方の町で生まれた。中小企業を経営していた父と専業主婦の母、2つ歳上の兄、6つ年下の妹の5人家族。子どもの頃から母親に虐待されて育った。

母を知る──「自己愛マザー」だった母

わたしは自分を取り戻すために、母娘関係の本を読みあさった。心理学者が書いた専門書もあれば、母親との問題を抱えた女性の体験談もあった。たくさんの和書を読んだが、それでも読み足りずに、わたしはアマゾンで英語の本を探し始めた。

自分と母との関係を、もっとよく知りたい。より手掛かりになるアドバイスが欲しい。

それと同時に、わたしにはもうひとつ問いがあった──「母とはいったい誰なのか」。

『Will I Ever Be Good Enough?』の日本語訳『毒になる母ー自己愛マザーに苦しむ子供

そして何冊か原書を読むうちに、ある時、アメリカの公認心理療法士が書いた『Will I Ever Be Good Enough?』(わたしはいつか充分な人間になれるだろうか?)を見つけた。その本を取り寄せて読んだ時、わたしは雷に打たれるような衝撃を受けた。

その本のなかに、母の姿があったからだ。

わたしの母は「自己愛人間」だったのだ。

自己愛人間とは、自分への強い愛に取り憑かれた、自己愛の肥大した傲慢な人間を指す。

そして、その本にある「自己愛マザー」の定義はどれもこれも、わたしの母の考え方や態度、娘に対する言動にぴったりと当てはまっていた──。

世間体が何よりも大切。自分が特別ですばらしい人間だという歪んだ自己像を持つ。常に誰かから評価され、承認されたい。自分が褒められ、注目を得るために周囲の人間を不当に利用する。自分の考えや価値観を押しつけ、娘の人生をコントロールしようとする。何かにつけ批判的だ。共感がない……。

それは啓示だった。この時、わたしは、自分が誰なのかという問いと、長年にわたる母との不和という、ふたつの問題を解決する糸口をついに摑んだと確信したのである。