「どうしてママを棄てたの?」
母の過剰な干渉から逃げきれなかった、ある女の告白Ⅱ

自分が誰だかわからない
〔Photo〕iStock

安田加奈(仮名)。47歳。独身。都内の小さな音楽事務所に勤めている。人口5万人ほどの中国地方の町で生まれた。中小企業を経営していた父と専業主婦の母、2つ歳上の兄、6つ年下の妹の5人家族。子どもの頃から母親に虐待されて育った。

第一回はこちらから⇒虐待、暴力、錯乱・・・「生まれる前からお前が憎かった」と母にいわれ続けた、ある女の告白

地球の裏側まで逃げて、逃げ切れなかった

大学を卒業したわたしは、メーカーに就職して2年働いた。

そしてお金を貯めて、子どもの頃からの夢を叶えるためにアメリカに留学した。中学生の頃から英語が得意だったこともある。ロックが好きで、好きなバンドのコンサートに行きたかったこともある。

だがそれ以上に、誰も自分のことを知らない街に行きたかった。言葉が自由に通じない街でどこまでやれるのか、自分の力を試してみたかったのだ。しかも留学するなら、ニューヨークと決めていた。ロサンゼルスは近すぎる。いつ、母が追いかけてくるかわからない。母の干渉から逃れるためには、地球の裏側まで逃げなければならない。

ニューヨークでは語学学校に通い、アメリカ人のボーイフレンドもでき、簡単な通訳の仕事もした。

ところが3年半が過ぎた頃、つきあっていたボーイフレンドが浮気をした。浮気をする父が嫌で、絶対に浮気をしない人とつきあいたいと思っていたのに、なぜかわたしまで、母と同じ悩みに苦しむことになった。裏切られたわたしは何もかもが煩わしくなり、渡米してもうすぐ4年になるという頃、ニューヨークをあとにした。

帰国して、数年ぶりに会った母はわたしにこう言った。

「どうしてママを棄てたの? ママを棄てて、これからどうやって生きていくつもり? 実家に帰ってくるんでしょ? お見合いの相手も見つけないとね」

母はまったく変わっていなかった。重い現実が待っていた。