危機に強い「リーダー」の条件
〜元自衛隊指揮官が説くマネジメントの基本とは?

〔Photo〕Getty Images
パリでの同時多発テロに対して、EUが「集団的自衛権の行使」を初めて表明した。日本にとっても、もはや「憲法9条があるから関係ない」では済まされない時代になってしまった。2002年、「イラク戦争」前夜、テロ対策に従事する各国海軍を支援するため、中東という戦場に海上自衛隊の艦隊が向かった。この艦隊を率いた指揮官だった髙嶋博視・海上自衛隊元横須賀地方総監は当時、何を思い、戦争にどんな覚悟を決めていたのか。

日本的指揮統率

小なりといえども、部隊を指揮する立場になったときから、よく言っていたことがある。艦長は、朝と晩、一日に2回は艦内を回れと。とにかく現場を回って、乗員に話しかけ、今艦内で何が起きているのか、乗員が艦の運営をどう感じているのかを知り、現場の空気を掴むこと。それが指揮統率の第一歩である。

艦を回ると、通路や甲板上で、あるいは食堂で必ず乗員に出くわす。彼らは、その都度艦長に敬礼する。海上自衛隊には、そんな艦長は一人もいないが、例えの話として、最悪の艦長は乗員の挨拶や敬礼に応えもしない。艦を例にしているが、会社でも役所でも、こういう風景がままあるのではないか。

少しましな艦長は、答礼だけはする。昭和20年(1945)夏までの環境や空気であれば、むしろ威厳があって、これでよかった。しかし今日の組織を率いる指揮官としては、甚だ不十分である。階級に胡坐をかく時代、階級で仕事をする時代は、とっくに終わっているのだ。今は、指揮官その人、人間そのものが問われる。

もう少しましな艦長は、答礼しつつ「おはよう!」と応じる。更に気の利いた艦長は「おはよう! 元気か?」と問いかける。そして、部下隊員の服装や顔を見る。目が生きているか死んでいるか。組織の規模にもよるが、部下の名前を憶えているか否かは、統率を行う上で重要な決め手になる。「おい、こら!」は問題外にして、上司・上官から呼ばれたときに、自分の名前があるとないでは、呼ばれる側の心理としては天地の開きがある。

私は、部下指揮官には、更に踏み込んだ対応を求めた。ベスト・アンサーは「おはよう○○士長。顔色いいな。田舎のか〜ちゃん元気か?」などなど。

こう問いかけられた大概の部下は、嬉しくなって状況を語るだろう。しばらく実家と疎遠になっていた乗員は、ドキッとするかもしれない。そして、この人となら一緒に仕事ができる、一緒に汗を流したいと思う。何気ない雑談や一言から、人の心はほぐれ、安心し、そして心を開く。

要は、部下と指揮官の間で言葉のキャッチ・ボールがあること。そして、心の交流があること。日本人的な発想だろう。しかし、日本という国の組織における指揮統率は、そうあるべきだと思う。