なぜ日本の政治はこれほど「劣化」したのか? 
幼稚な権力欲を隠さぬ与党とセコい野党

特別対談 島田雅彦×白井聡
〔photo〕gettyimages

島田雅彦氏の話題の新作『虚人の星』は、「血筋だけが取り柄」の首相と七つの人格をもつスパイの物語だ。この首相はかぎりなく「あの人」を思わせる。島田氏は現在の日本政治が抱える問題をどう見ているのか? 政治学者・白井聡氏との特別対談です。

総理の無意識を読む

島田雅彦 本日は『虚人の星』刊行記念、白井聡さんとのトークイベントにお越しいただきありがとうございます。白井さんは、今の政治の劣化した状況には義憤をかなり抱いていらっしゃるでしょうから、まずはそのあたりから伺いたいと思います。

白井聡 おっしゃるとおり、基本の基本を確認しなければいけないような危機的状況になっています。下っ端の党員の劣化が激しいのは勿論、閣僚クラスからも垂れ流し的にどうしようもない発言が出続けています。

例えば中谷元防衛大臣が「憲法を法律に合わせるんだ」と言ったり、安倍首相が「ポツダム宣言を詳らかに読んでいない」と言ったりと、普通に考えれば一発で政治生命を失うようなことが平気でまかり通っている、恐ろしい世の中になってしまいました。

白井聡氏

政治の劣化というのは昔から言われてきましたが、これまでとは全然レベルが違う何かが起こっているのは確かです。そんな状況で、「立憲主義というのは基礎の基礎なので守ってもらわないと困りますよ」という話をいろいろな学者がしているのですが、僕としてはその中でも、政治のリビドー分析のようなことが自分の仕事だと考えています。

「政治」という言葉で多くの人がまずイメージするのは、自己利益をどう拡大するかということです。自己利益の最大化を目指しつつ妥協すべきところでは妥協するということで、利害の計算があってもろもろの決定がなされる、それが政治の基本だと思われています。仮に政治がそれに尽きるとすれば、政治ってそんなに難しいものじゃないし、戦争も起きずに済むわけです。

ところが現実の政治はもっと複雑なもので、当然利害の計算はしますが、計算を突き動かしている、より原初的な欲望というものがある。ただ、それはどういう欲望なのかは当人にもよくわからない。

このようなメカニズムを先駆的に指摘したのが、ジークムント・フロイトで、それを彼はリビドーと呼んだわけです。要するに人間が意識化できることは氷山の一角で、その下の部分は全然わからない。そのわけのわからないものに突き動かされて人間は動いているのだと。

この見方を政治に当てはめると、政治を突き動かしているのは、そのわけのわからない部分で、それが大きくて強力なんだと思うんですね。僕としてはそこを読むということを、政治学者としての自分に課しています。

例えば、政府が発表する、あるいは安倍晋三が総理大臣として発表する言葉、言葉遣いを読んでいく。その具体的な内容よりも、言葉の端々に表れる、おそらくは本人ですら気づいていない欲望の表れみたいなものを読んでいくんです。

実はその欲望というのが、今の政治の在り方、動き、方向性というものを根本的に動機付けているものなんじゃないかというのが僕の見方です。