現代新書

世界を制した「ばね」会社の破天荒な経営戦略〜ニッポンの中小企業の「底力」をみよ

大企業の軍門に下ってたまるか!
黒崎 誠

在庫はムダではなく財産である

同社の最大の武器は、この道一筋の匠の技を持つ職人芸にある。

同社が得意とする手づくりばねは、材料を切断するところから始まる。サイズ、数量は顧客ごとに異なるから必要な時に必要なだけ材料をそろえておくことが重要と、在庫をできるだけ多く持つ。特殊な材料になると1年以上もストックする。

これは在庫はムダなものでなく財産、との経営方針に基づいている。在庫はゼロが理想、というトヨタのかんばん方式が多くの企業で採用される中で逆の発想ともいえよう。

次の成形加熱は、切断された鋼材を900度前後にまで加熱する工程。どの程度まで加熱して取り出すかは、真っ赤に焼けている材料の色等を見て決めるが、その日の天気、気温、湿度などによって微妙に変化する。ベテラン社員のカンと経験が、ここで発揮される。

巻き取りの工程では、職人芸のノウハウが詰め込まれた世界に一つしかないロボットが活躍する。ここでもばね職人を自負するベテラン社員が操ることで高精度のばねになるという。

ピッチ調整は、ばねの形状や特性を決定づける極めて重要な工程で、社員の目と腕だけでミリ単位の調整を行う。まさに腕の見せどころだ。機械内部で使われることの多いばねは、直角や平行であることが求められ─―これを直角度、平行度と呼ぶが─―高い精度が求められる。やはりここでもベテラン社員が、高速回転する機械で丹念に仕上げる。

以上を含むさまざまな工程を経て、ばねはでき上がるわけだが、最後の完成検査でも「わずかなミスも見逃すまい」との気概にあふれた検査員たちが外観、寸法、重量、非破壊といったいくつもの検査で厳しくチェックする。

この検査は、東海バネが独自に定めた厳しい検査基準で行われ、ここで合格した製品だけが最終工程である錆び防止に回され、完成・出荷となる。こうした職人芸の社員たちによる手づくりこそが、会社を支えているゆえ、海外に生産拠点を移すことはまったく考えていない。

会社独自の匠の技の試験があり、これに合格すると匠の職人と認定される。試験は国家資格である「金属ばね製造技能士」よりはるかに難しいという。匠にはレベル1から4までのクラスがあり、上昇するに従って報酬も上がっていく給与体系となっている。年齢、経歴などに関係なく誰でも試験を受けられるため、若い社員や途中入社組が上位に入ることも決して珍しくない。

手づくりを続けることと職人芸を100年後にも継承するため、豊岡工場(兵庫・豊岡市神美台)のなかに啓匠館という名称の建物を建てた。ここでは6人の匠の技を持つ社員がすぐれたばねをつくるため黙々と働いている。啓匠館で働くことは社員の目標にもなっており、配属を命じられた社員がうれし泣きに泣いたというエピソードさえある。