現代新書

世界を制した「ばね」会社の破天荒な経営戦略〜ニッポンの中小企業の「底力」をみよ

大企業の軍門に下ってたまるか!
黒崎 誠

受注平均ロットが5個でも儲かる理由

多くの分野で使われるばねをつくる同社であるが、先述した通り、100個、200個程度の量産品でも受注を断る。逆に10年前に製造した1本のばねが古くなったので取り替えたいという注文には応じる。

1本、1本の手づくりを基本とし、受注平均ロットはたったの5個。業界の常識から見れば、とても経営が成り立つとは思えない受注ロットだろう。

しかし、2014年度の売り上げは約19億円。粗利益は約50パーセント、営業利益12パーセントの超優良企業。その秘密は「わが社の言い値で買ってもらうため」(渡辺良機社長)という。

東海バネの主要な取引先は、大手の鉄鋼、電気、造船といった有力企業。対する東海バネは、典型的な中小企業。産業界の常識であれば、中小企業は大手企業に厳しい値引き要求を突きつけられて泣く泣く要請に応じざるを得ない。

これに耐えられない中小企業は転廃業に追い込まれる。大手企業の値引き要求がどれほど熾烈なのかは、日本の中小製造業が、この15年で30パーセント以上も減っていることを見ても明らかだろう。

多くの中小企業にしてみれば信じられないような話だが、本当であることは営業成績が示している。大手が大量に購入するといっても断り、正当な利益の見込める価格でしか注文に応じない姿勢を一度も崩さない。これを支えているのは、他のばね会社には絶対にマネのできない高品質の特注品に特化していることだ。

ばねには経済産業省の定めたJIS規格が適用されるが、同社は独自の社内規格を設定し3倍以上の精度のばねを基本としている。ドアのばねが壊れてこのままではドアごと取り替えなければならない、といった個人の1個にも手抜きをせず注文に応じる。だが、大半は大手企業や研究所、大学などからの特注品。このため1個の単価が、数万円、数十万円と極めて高価格。高い利益率の秘密はここにもある。

その一方、納期は絶対に守り、完納率は99.9パーセントと完璧に近い。同社がコンピュータを導入したのは、多くの企業がまだ導入していない約40年前から。コンピュータによって顧客管理を行えば、すべての顧客の注文の日時、製品、価格等が管理できると社長の良機が直感したことが始まりだった。

今ではパソコンで管理し、一度でも取引のあった顧客であれば企業だけでなく個人でもどのようなばねを納品したかが、年月日まで即座に分かる。この情報は営業から製造現場まで共有しているからその場ですぐに対応できる。

でき上がるまでの日数や製造現場の状況を判断して注文に応じることが、完璧に近い納期となり、これが顧客の信頼へとつながっている。