現代新書
世界を制した「ばね」会社の破天荒な経営戦略〜ニッポンの中小企業の「底力」をみよ
大企業の軍門に下ってたまるか!
〔photo〕東海バネ工業のHPより

大企業から厳しい値引き要求を突きつけられたら、泣く泣く応じるしかない。それに耐えられない中小企業は、転業や「退場」を余儀なくされる――それが日本の産業界の「常識」だ。

ところが、大企業の軍門に下るどころか、敢然と立ち向かっている中小企業が、大阪市にあった。東海バネ工業。小惑星探査機「はやぶさ2」や「東京スカイツリー」、「しんかい6500」に特別仕様のバネを供給している会社である。

「値引きしてまで売らない」「わが社の言い値で買ってもらう」。大きな自信の背景には、「ばね職人」を自負するベテラン社員たちの高い技術と、1個1個の手づくりへのこだわり、そして一人一人の従業員を大切にする社風があった。

大量注文にはいっさい応じない

東海バネ工業は、社名の通り「ばね」のメーカーだ。ばねをつくる会社は、兼業を含めると国内だけでも3000社以上ある。競争が激しく、どの企業も少しでも多くの注文を確保しようとしのぎを削っている。

だが、大阪市福島区に本社を置く東海バネは、他のばね会社とは異なり、大量生産の注文には応じない。「1000個、2000個の注文はもとより、100個、200個といった注文があった場合でも、わが社は大量生産しませんので他社にお願いしてください」と断る。

大量生産時代を迎えた現在もなお、職人芸による1個、1個の手づくりにこだわり続け、特注品の手づくりばねのオンリーワン企業となった。この経営方針を変えることは考えていない。数多くある日本の企業の中でも「世界一変わった会社」だ。

ばねは、家具の一部やヘルスメーターなどのように、わたしたちの日常生活を陰に日向に支える品物の一つだ。

日常的に使われるばねの多くは、縮ませると反発する力を利用した「コイルばね」と呼ばれるものや、引っ張られると荷物を支える「引張コイルばね」等だ。

しかし、小さなスペースで大きな力を発揮する「皿ばね」、トラックや鉄道車両に使用される「大型ばね」や、電子機器の内部に組み込まれる「板ばね」、小さな容積で大きなエネルギーを吸収する「輪ばね」、ダムや水門の安全装置に活躍する「ゲートロボ」、四角い断面の材料でつくりばねの力が強力になった「角ばね」といったように、東海バネは用途に応じて実に多様なばねをつくっている。

日常生活から「はやぶさ」「スカイツリー」まで

2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、10年6月、日本に帰還を果たし、小惑星「イトカワ」で採取したサンプルの入ったカプセルは無事回収された。はやぶさの成功は、日本の宇宙関連技術の高さを示し、世界から高い評価を受けた。

はやぶさにはイトカワの物質をサンプル採取する装置(サンプラー)をはじめ、数多くのばねが使われている。このばねを一手に引き受けたのが、東海バネだった。もちろん「はやぶさ2」でも使われた。