読書人の雑誌『本』
最新の脳研究が教えてくれること
〜「クリエイティブ」になりたければ、まず脳を理解しよう!

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芸術は脳が創りだした産物

「ふと頭に思いが湧くのはどうしてか?」

学生時代に抱いたこの疑問が、私を脳研究にかりたてることになった。研究を進める過程で、「数理科学と神経回路網」の世界的研究者・甘利俊一先生の助言をうけ、神経回路網のダイナミクスの重要性を認識した。ダイナミクスに興味を持った仲間は、津田一郎(北大)、合原一幸(東大)、藤井宏(京産大)、奈良重俊(岡大)の面々であり、後に世界の脳科学者から脳ダイナミクスの「Gang of Five」とよばれている。

集まればディスカッションが始まる仲間で、津田は「ヒトとサルの本質的違いはどこにあるのか?」と問いかけた。「サルは三段論法ができるのか?」。できたとしても「やらされているのか?」それとも「理解して使えるのか?」。この違いが能力の差だ! 数年をかけてサルの実験をすることになった。

人間の脳のすごいところは、情報表現の機能にある。つまり、脳の中で外の世界を構築し思考する能力だ。脳はニューロンを基本情報処理単位(コンピュータのCPUに相当)として互いに結合し神経回路網(ハードウエア)を構成し、その上に情報(ソフトウエア)を表現している。

脳にはプログラムのようなソフトウエアがない代わりに、学習と記憶が重要な役割を演じている。コンピュータの直列処理と異なり、脳の特徴は並列学習情報処理であり、あいまいな状況における的確な判断や予測、イマジネーションや創造性に優れている(詳しくは講談社ブルーバックス『芸術脳の科学』にて)。

ところで芸術とは、人間の創造物であり、人間の脳が創りだした表現でもある。私はふと浮かんだ美のイメージをカンバスに描くために、さまざまな資料を集め、今までにない新しい組み合わせや情報を統合することによって、ふたたび脳内にその美を再構成する。

イメージができ上がるまでに時間がかかるが、イメージが完成するとカンバスに向かい一気にデッサンをする。1+1は2でなく3や4や5を創り出すためだ。この創造の表現を150号の絵にして30年間上野の東京都美術館に出品してきた。脳の創造活動と絵画、音楽、ダンスの美の表現は密接に関係している。