【特別公開】実力派作家・長浦京が死の淵を彷徨った末にえぐり出したの渾身の時代小説『赤刃』
いきなり「小説現代長編新人賞」受賞!

便器に下血した鮮やかな赤を見た時、初めて人の血の美しさを純粋に伝えたい思いに駆られたという『赤刃』の著者、長浦京さん。病院のフロアで死の淵を垣間見、生と死となりあわせのギリギリの環境が、執筆へと向かわせた。

江戸を震撼させていた、戦国生き残りの辻斬り集団・赤迫雅峰と、彼らを殲滅すべく幕府から命を受けた、武芸のエリート・小留間逸次郎。現在に跋扈するテロリストさながらのキャラクターもさることながら、血まみれとなる2人の「鬼」の決闘をクールに、スピード感あふれるタッチで描いた本作は、エンターテインメント小説として一読の価値ある作品に仕上がっている。

さらに、逸次郎と赤迫以外にも、個性的な登場人物が躍動するのが『赤刃』の特徴だ。今回は文庫化を記念して書き下したサイドストーリーに長浦さんご自身の言葉も加えて紹介する。

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著者のことば~~小説現代長編新人賞受賞『赤刃』が誕生するまで

長浦 京(ながうら・きょう)
1967年埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業後、出版社勤務などを経て放送作家に。その後、難病指定の病にかかり闘病生活に入る。退院後に初めて書き上げた本作で、第6回小説現代長編新人賞を受賞。現在、次作に向けて執筆を続けている。 写真/渡辺充俊(本社写真部)

入院中のトイレで便器を見下ろした時に『赤刃』は始まりました。

日々繰り返していた下血。ライトに照らされたその赤色の鮮やかさを、人の血の美しさを、病気の痛苦とは切り離して純粋に伝えたかった。さらに病院では、同じフロアーの患者が週に一人は亡くなりました。末期のベッドを囲み、家族が「目を開いて」と呼びかけている。

脈の消えた女性の横で「おかあさん早過ぎるよ」と泣いている。そのすぐ近くを通り、看護師が笑顔で検温にやってくる。「メリーさんのひつじ」を奏でながら電動ワゴンが食事を運んでくる。自宅へ運ばれてゆく遺体の横で、皆がテレビや本を見ながら消灯までの時間を過ごしている。

死と死がもたらす喪失が、平凡な日常にあまりにも完璧に溶け込んでいました。嫌でも、命とは、生きるとは何かを考えるようになりました。

そんな思いを僕なりにエンターテインメントで包み込んだのが『赤刃』です。義理人情や武士道など、時代劇的な虚飾はすべて剥ぎ取りました。

生類憐みの令発布までの江戸を覆っていた血腥さと暴力主義を、男臭さ泥臭さを極力排除し描きました。たぶん今の時代小説というものが、どうにも気に入らないのだと思います。

予定調和を求める固定ファンのためのものなんて偏狭なレッテルを引き裂いて、たまらなく胸躍らせるものに引き戻したい――。気概ばかりが先走り、空回りも目立つ『赤刃』ですが、一度手に取り読んでいただけたら幸いです。(長浦京)

つづいてサイドストーリー「赤刃―外伝―」をおたのしみください!