ロシア旅客機墜落事件
〜プーチンが狙う勢力拡大のシナリオ

インテリジェンス・レポート「分析メモ」より
墜落したコガリムアビア航空9268便の残骸

シナイ半島におけるロシア民間航空機の墜落

事実関係

―10月31日、エジプト東部シャルムエルシェイクからロシアのサンクトペテルブルクに向かっていたロシアのコガリムアビア航空9268便(エアバスA321旅客機、乗客乗員224人)がエジプトのシナイ半島で墜落し、乗客乗員の全員が死亡した。

* * *

コメント

1. シャルムエルシェイクは、ロシア人に人気の高いリゾート地である。本件に関しては、「イスラム国」(IS)の系列の「シナイ州」を名乗る団体がインターネット上で犯行声明を発表したが、犯人しか知らない「秘密の暴露」に該当する事実がないので、信憑性が疑われている。

2.―(1) 本件に関しては、米政府が当初からテロであるという見方を示した。

<エジプトで起きたロシア機墜落をめぐり、米CNNテレビは3日、米政府当局者の話として、同機が墜落前に空中で強い熱を発するのを米軍事衛星が探知していたと報じた。

CNNによると、米情報当局内ではミサイルによる撃墜を完全に否定する分析が出されている。しかし熱源の探知は、空中爆発など飛行中に重大な異変があったことを示している。>(11月4日 産経ニュースより)


2.―(2) 米国だけでなくヨーロッパ政府も、初めからテロ説に傾いていたが、ロシアは11月5日頃までは慎重で、事件、事故の両面から調査を進めているという姿勢をとっていた。

<【ロンドン=内藤泰朗、カイロ=大内清】エジプトのシナイ半島で起きたロシア機の墜落で、ハモンド英外相は5日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」関連団体による犯行の可能性が「かなり高い」と英メディアに明らかにした。米メディアも、イスラム国系組織が機内に爆発物を仕掛けた可能性があるとする当局者の話を伝え、テロの可能性が強まった。

キャメロン英首相は5日、英国を訪問中のエジプトのシーシー大統領と会談。共同会見で、シーシー氏は「英国の懸念は理解できる」とし、安全確保へ両国が協力することで一致したと述べた。だが、会談に先立ちエジプトのカマル民間航空相は声明で、テロ説を支える証拠はまだなく、ロシア機が爆破されたとの「仮説」は「事実に基づいていない」とした。

キャメロン氏は「爆発物による可能性がある」と英テレビに指摘。英政府は、シナイ半島の保養地シャルムシェイクへの英旅客機の乗り入れ停止を決め、渡航を控えるよう国民に呼び掛けた。独ルフトハンザ航空は、同半島の空港を発着するグループ会社の運航を当面停止する。

ロシアはイスラム国掃討を名目にシリアでの空爆作戦を行っており、ロシア機墜落に関し、イスラム国傘下組織の「シナイ州」が犯行声明を出している。

一方、プーチン露大統領は5日、キャメロン氏と電話会談し、公式調査で原因を特定すべきだと述べ、爆発物による可能性を公言した英国に不満を表明した。>(11月6日 産経ニュースより)

2.―(3) ロシアが当初からテロ説をとらなかったのは、コガリムアビアが、チュメニ州のハンシ・マンシ自治管区(石油原産地で豊かな地域。コガリムは自治管区の主要都市)に拠点を持つ地方の航空会社で、機体の整備不良の可能性が排除されなかったことと、当該飛行機がミドル・イースタン航空に属していた2001年11月16日にカイロ国際空港で「しりもち事故」を起こし、修理をした経緯があるためだ。

3.―(1) ロシアとしても、本件はテロであると認識している。それだから、プーチン大統領が11月6日にロシアとエジプトを結ぶすべての航空便を運航停止にしたのである。

<エジプト東部シナイ半島でロシアの旅客機が墜落した事態を受けて、ロシアのプーチン大統領は6日、ロシアとエジプトを結ぶすべての旅客航空便を当面の間、運航停止にする考えを表明した。英米首脳が機内に爆発物が仕掛けられたテロの可能性を相次いで指摘したのに続き、ロシアもテロ説に傾いているとみられる。

ロシア連邦保安局(FSB)のボルトニコフ長官は6日、プーチン氏が開いた安全保障会議に出席した後、ロシア機墜落の原因が解明されるまで、ロシアとエジプトを結ぶ航空便の運航を中止するべきだという考えを表明した。プーチン大統領も直ちにこの方針に同意した。

ペスコフ大統領報道官は「墜落がテロだったと考えているわけではない」と説明し、安全が確保されれば運航は再開されるとした。ただ、ロシアとしても、テロの可能性が否定できなくなったことは明らかだ。>(11月7日 朝日新聞デジタルより)

3.―(2) 11月8日、エジプト政府の事故調査委員会が本件はテロであるとの見方を強くした。

<【カイロ時事】エジプト東部シナイ半島で10月31日に起きたロシア機墜落に関するエジプト調査委員会のメンバーは8日、ロイター通信に対し、ブラックボックスに記録された爆発音について、爆弾によるものであることは「90%確かだ」と同委が判断していると述べた。

エジプトとロシアを結ぶ全航空便の運航停止を決めたロシアに続き、エジプトもテロ説に傾いていることを示している。墜落をめぐっては、既に米英がテロの可能性が高いと判断。仏メディアは、ブラックボックス解析を担当した関係者の話として、爆発音が聞こえたと報じていた。>(11月8日 時事ドットコムより)

3.―(3) 現時点において、ロシアもテロ事件であるという認識を有している。そこで、プーチン大統領は、本件をロシアの国益増進のために最大限に利用することを考えている。

国際調査団によって墜落の原因が究明される過程で、ロシアがテロリズムの犠牲者であることを最大限に強調し、現在、シリアでロシアが行っている軍事作戦が不可避であるとの認識を国際社会(特にヨーロッパ諸国)に抱かせることを狙っている。

民間機に対する爆弾テロに関しては、国際的な関心が高い。国際機関による真相究明に時間をかけ、本件のニュース性を持続させることがロシアにとって有利であるとプーチン大統領は考えているのであろう。

3.―(4) ロシア世論においては、本件はテロ事件であるという認識が既に主流になっている。ロシア人の間で「力によってテロを封じ込める必要がある」というコンセンサスは確立しているので、プーチン大統領のシリアへの軍事介入に対する支持がいっそう強まるものと見られる。

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.072(2015年11月11日配信)に収録した記事を掲載しました。

メルマガのお申込みはこちら

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」は著者とのつながりを体感できるメルマガです

「インテリジェンスの専門家」である佐藤優氏がプロだからこそ読み取れる行間のシグナルをもとに、各国のディープな情報を「分析メモ」として提供。既存の媒体では読めない的確で深みのある分析を展開しています。ほか、いま読むべき本や本の読み方を指南する「読書ノート」、佐藤優氏が読者からの質問すべてに答える「質疑応答」、文化放送「くにまる・ジャパン」の発言を収録。 本メルマガで佐藤優さんとつながる実感をぜひご体験ください!

* * *

佐藤優「社会人のための使える教養」講談社早朝講座 受付中!

新自由主義的な風潮が強まるなか、ビジネスパーソンが会社の内外を生き抜くためには、実践と教養を兼ね備えた、新しいかたちの総合知が必要です。「知の巨人」佐藤優氏が、ビジネスパーソンが実社会を生きていくために欠かせない武器を伝授する、まさに「朝活」の決定版ともいえる講座です。

詳細・お申込みはこちら⇒ http://ptix.co/1Mzliha

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら