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日本の政府中枢に「モグラ」がいる! 〜日中朝「スパイ大作戦」の全貌
〔PHOTO〕gettyimages

中国当局に立て続けに拘束された日本人。事件の裏側では、日本政府内に潜伏するスパイ=「モグラ」の存在が疑われていた。知られざる日中朝の諜報戦の内情を、最前線で取材を続ける二人が語り尽くす。

〝北〟に情報が漏れている

竹内明 先日、複数の日本人が、スパイの嫌疑をかけられて、中国で身柄を拘束されていることが明らかになりました。

多くの人が驚いたと思うのですが、このニュースに関しては、意外なほど続報が少ないですね。菅義偉官房長官が「我が国がスパイ行為をすることは絶対にない」と述べたように、まず日本政府が強く否定していて、情報が出てこない。

そして、現在でも当事者が中国で拘束されたままの状態にあることから、マスメディアでは、なかなか事件の深層や背景を報じにくい状況にあります。

たけうち・めい/'69年生まれ。慶應大学法学部卒業後、'91年TBS入社。ニュース番組「Nスタ」キャスターを務めながら国際諜報戦や外交問題に関する取材を続ける。最新刊『マルトク 特別協力者

富坂聰 政府関係者は、そうこうしているうちに、世間がこの件を忘れてくれるのを息を殺して待っているのではないですか。

とみさか・さとし/'64年愛知県生まれ。拓殖大学教授、ジャーナリスト。'80年に台湾に渡り中国語を習得、のち北京語言学院を経て北京大学中文系に進む。'94年に21世紀国際ノンフィクション大賞優秀賞を受賞

竹内 そうでしょうね。今回拘束された4人は民間人ですが、うち3人は公安調査庁の協力者だったと報じられています。

富坂 たとえば、中朝国境地帯の遼寧省丹東で拘束された男性ですね。

竹内 ええ。この50代の男性は、現在では日本国籍を取得しているけれども、もともとは北朝鮮からの脱北者でした。

富坂 私もそう聞いています。月1回ほどのペースで中朝国境に入り、ジャーナリストだとか報道関係者だと言って、情報収集をしていた。

ただ彼は、脱北者を支援するNGOの活動もやっていたようですね。中国では「脱北」は不法越境と見なされていますし、海外NGOなどによる人権活動にも敏感ですから、「お前はメディアではなくて、活動家ではないか」ということで逮捕されてしまった。そうしたら、取り調べの中で、公安調査庁に依頼されて情報を集めていたと話してしまったようです。

竹内 そもそも、一般の日本国民からしてみると、「日本のスパイ」と言われてもあまりピンとこないと思うのです。スパイと言えば、『007』のようなイメージで、日本にそんな人々がいるものかと思ってしまう。

富坂 そうでしょうね。

竹内 確かに、米国のCIA(中央情報局)やジェームズ・ボンドが所属している設定の英国のMI6のようなヒューミント(人的諜報)をやる諜報機関は日本にはありません。しかし、日本がインテリジェンス活動をしていないわけではない。

各国の在外公館では、警察庁からの出向者や自衛隊から派遣された防衛駐在官が情報収集にあたっています。ただ、公務員がいわゆる非公然スパイとして、身分を隠して海外に赴き、諜報活動をすることはないわけです。

実質的にその役割を担っているのは、民間の協力者なんですね。

富坂 私自身はやったことはありませんが、海外に出る機会の多い実業家やジャーナリスト、NGOの職員などが、公安調査庁の人間に食事に誘われて、「今度あの国に行くんだったら、こういう写真を撮ってきて」と頼まれたりするわけです。

竹内 私もテレビの取材で北朝鮮に行くことがあるのですが、現地で不審行動は禁物ですよね。そもそも、私は日本政府の情報管理を信用していない。頭をよぎるのは、'99年に北朝鮮当局に拘束され、2年間も帰国できなかった元日本経済新聞記者の杉嶋岑氏の事件です。

富坂 あれもまさに、公安調査庁でしたね。

竹内 ええ。杉嶋さんは'80年代から取材で何度か訪朝していて、そのたびに写真や情報を公安調査庁に提供していた。日本のためと言われて、志に燃えていたのでしょう。しかし、北朝鮮に身柄を拘束されて以降、日本政府のフォローは何もなかった。それどころか、杉嶋さんは帰国してから、こんな証言をしている。

「北朝鮮では、自分が公安調査庁に提供した資料を見せられて、『お前はスパイだろう』と追及され、驚愕した」と。

富坂 日本政府から、北朝鮮に情報が流出していたというわけですね。

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