企業・経営
「日本でのものづくりに限界を感じる」と決算発表で吐露したトヨタの事情
「国内雇用を守る」という建前に縛られて苦戦
【photo】Getty images

 トヨタ自動車で経理財務を担当する小澤哲副社長から「爆弾発言」が飛び出した。

 トヨタは11日、2011年3月期連結決算を発表した。その席で小澤氏は「今の円高ではCFO(財務担当役員)としては日本でものづくりを続けることに限界を感じている。ユーロ安のドイツメーカー、ウオン安の韓国メーカーとは国際競争力で大きな差が開きつつある」と吐露したのだ。

 トヨタはこれまで国内での生産基盤の維持にこだわってきたが、その大きな方針転換とも受け止められる。中小企業を含めて多くの取引先を抱えるトヨタの生産方針転換は日本経済にも影響を及ぼす一大事だ。しかし、小澤氏の横にいた豊田章男社長は「雇用を守るため歯を食いしばって国内で頑張る」と小澤氏の発言を制した。

 このやり取りを見ていると、社長と副社長の意見が違う「閣内不一致」を感じさせる。しかし、実はこれは「茶番劇」なのだ。こうしたやり取りの深層に今のトヨタの「病巣」がある。その構図を説明しよう。

建前とホンネの間で大揺れ

 トヨタの2011年3月期(2010年4月~11年3月)の連結決算は、売上高が前期比0・2%増の18兆9936億円。本業のもうけを示す営業利益は約3・2倍の4682億円だ。増益の理由はタイやインドネシアなど東南アジアで販売が伸びたことやコストダウンである。しかし、東日本大震災の影響で約17万台の販売減があるなど約1100億円の減益要因が発生したため、営業利益は予想値5500億円を下回った。

 販売面では、日本、北米、欧州で落ち込んで苦戦が続く。海外の子会社の決算が入らない単独決算では営業赤字が3280億円から4809億円に拡大。構造改革を進めるものの、円高による輸出の採算悪化や高い固定費などが足を引っ張っているからだ。このため、トヨタの本音は、日産自動車が昨年夏に小型車「マーチ」の生産を日本からタイに移管したように、海外生産を加速させたいのだ。

 しかし、トヨタには「しがらみ」が多いため、簡単には海外に移れない。まず、中部地区を中心に多くの下請け企業を抱えるトヨタが海外移転を加速すれば、一緒に海外進出できない弱小下請けは飯が食えなくなる。空洞化につながると批判を浴びる。国内雇用が問題となっている中、財界のリーダーであるトヨタが海外移転を率先するわけにもいかないのである。

 「家庭的美風」という言葉でチームワークを何よりも大切にする豊田家は地域の「名主」的な存在でもあり、メンツがある。まして豊田家は企業統治の象徴的な存在ではなく、実権を握る社長であるため、顔に泥を塗るわけにもいかない。

 トヨタという企業はいま、経済合理性とはかけ離れた建て前と本音の間で揺れているように映る。「閣内不一致」もその表れと言える。副社長が海外移転を推進する「悪代官」役を演じ、豊田家の社長がそれを諌める「若殿」というわけだ。

 「若殿」は決して「バカ殿」ではなく、非常にクレバーであり、今の局面では経済合理的には海外移転が正しいと内心思っている。それを決して表に出さず、国内雇用を守る正義感あふれる「若殿」を演じているから、失礼ながら「茶番劇」と言ったのだ。

 しかし、系列の下請けは、トヨタの本音を計り知れない状態にあり、どう動いていいか迷いが生じている。このため、素早く意思決定してトヨタより先回りして動くことができない。

 かつてトヨタが強かった時代は、下請け企業がトヨタの動きと同期化するか、それよりも先に動いて海外に出て、トヨタが出てくるのを出迎えた。だから、トヨタは海外の生産拠点を立ち上げるのが非常に早かった。

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