直木賞作家・桜木紫乃さんの「わが人生最高の10冊」
映画『起終点駅 ターミナル』公開中!

私にとって本は「親に隠れてコッソリ読むもの」

書き手には「子供の頃から読書漬けで」という方が多いのでしょうけれど、私は正反対。うちが理容店だったこともあって、「本を読む暇があったら、家のことを手伝え」と言われていました。

だから私にとっては、小さい頃から、本は親に隠れてコッソリ読むもの。両親とも、小説を読むような人ではなかったから、子供が本を読んで生意気なことを言うようになるのもイヤだったかもしれない。そういう心の機微も、いまなら少しは分かるような気がします。

小学校に入ると、図書室で自由に本が読めたのですが、私の場合は読むというより、分厚い事典や、写真の多い大型本を眺めるのが好きでした。一番見ていたのは、エジプトの秘宝やピラミッドの謎を扱った本。遠くにある別世界の景色が好きで、いまでも世界遺産などの特集番組をテレビでやっていると見入ってしまいます。

小説らしきものを読み始めたのは中学2年生の頃。それが、1位の『挽歌』です

うちは2階を部屋貸ししていたんですが、その部屋の住人が引っ越して出ていった後は、私が掃除をしていました。そしたら、あるとき文庫本のたくさん入った段ボール箱がひとつ、残されていた。

1冊だけ、段ボール箱からはみ出ていた文庫があったので、手に取って読み始めたら、物語の舞台が、地元の釧路でした。いつも見ている風景が、物語の中に描かれている。それがうれしくて、すぐに夢中になってしまった。

主人公である兵藤怜子という女性は、素直じゃないというか、意地っぱり。「海の者」らしい性格で、これもまた釧路っぽいんですよ。私はすっかり影響されて、釧路の街で、少しきれいな人とすれちがうたびに、あ、兵藤怜子だ、と思ってしまうくらい作品の世界に浸っていました。当時は、物語に描かれている男女の機微なんて、分からなかったんですけどね。

『挽歌』はもともと、「北海文学」という同人誌で連載されていたんですが、実は、私がデビューしたきっかけは、のちに出会った同誌の主宰者、鳥居省三さんから、小説を書いてみたらと言われたことでした。そういう意味でも、縁の深い作品です。

同じく、中2の時に読んだのが、2位の『サンダカン八番娼館』。ノンフィクションながら映画化もされた作品ですが、私はその映画で観た田中絹代さんの演技に圧倒されたんです。

最近、改めて読む機会があったんですが、著者の山崎さんが体を張って取材していることがよくわかります。この作品から何十年も経って、井上理津子さんが『さいごの色街 飛田』という本を書いていますが、彼女も色街に飛び込み、相手の懐に入って取材している。

この2冊を通して思ったのは、どんなに時代が変わっても、女の体は変わらないんだなということですね。