医療・健康・食
天皇陛下の執刀医が考える、医療とテクノロジーの未来
【対談・天野篤×小川和也】

厳格に「医師」を全うしたい

小川:現状の臨床レベルで、どの程度までテクノロジーが活用されていますか? 手術支援ロボット「ダヴィンチ」などの医療用ロボットなどはしばしば話題に上りますが。

天野:「ダヴィンチ」に適した手術を行なえば、どんどん浸透はするでしょうし、役にも立ちます。しかし現実的には、心臓の手術には保険が適応されていなかったり、手術において追いかけるべき本質のひとつであるスピードアップにつながらないというエビデンスがあるので、もしスピードアップに直結してくれば、前立腺の手術みたいに活用できる余地は広がると思います。

興味本意ではなく、いままでの治療よりもアドバンテージがあることを患者さんに対してきちんと明確にできなければなりません。最新技術がファッションであってはいけませんから。

小川:言わずもがな、それが手術にどのように寄与するのかという具体が重要であって、ファッション、話題性だけで活用するわけにはいきませんからね。

天野:そうです。話題性を利用して患者さんを集めるようなことはあるまじき行為です。新しい技術を導入し、エビデンスが乏しい中で手術をしている外科医もいることは事実です。それは日本に限らず、世界的にみられる現象です。前人未到だからという理由で、患者さんを説得することは望ましくありませんね。

小川:先端技術は新しい可能性を多分に持っていますし、その可能性が花ひらくことは医療の発展にもつながるわけです。しかしながら、発展途上の段階において、その取り扱いについて真摯であることは不可欠ですね。

天野:安全性を担保できてこそですね。それと国内においては、健康保険制度の中で認可された医療、つまり保険適用可能であるということが重要だと考えています。そうでなければ完全に自費か、医師との契約の中で行なう医療になりますから、我々が行なっている臨床だけではなく、教育や研究対象からも外れてきます。特に教育はそうなりますね。

小川:テクノロジーと人間の身体が接近したり、さらに一体化まですると、テクノロジーならではのトラブル、セキュリティの問題があらたに生まれるでしょうから、まさにコストと安全性は課題となるでしょう。人体をテロのターゲットにするような悪意も生まれかねませんから。

天野:安全性なくしては、いくら高度なテクノロジーも活用できませんからね。特に医療では。

小川:臨床のレベルで一般的なものにするためには、先端性はさることながら、安全性、コスト面も含めて進歩しなければなりませんね。

天野:いっそうのこと、タダもしくは保険診療の範囲の中でこの技術を使っていいですよという財団とか、お金持ちが公共的な精神で提供してくれたらとは思います。自利的な資本主義の考え方のもとでは無理でしょうけれど。

小川:いまのような資本主義の延長線上にテクノロジーの発展があった場合、豊かな人しか先端医療を受けられない構造は顕著になるでしょうね。

天野:無双の弁慶ですら「参りました」というようなテクノロジー、公共性、平等性、そのようなものが全て揃う時までは、自分は弁慶でいようと思うのですね。

小川:先生はチャレンジ精神が旺盛であると同時に、その辺りはとてもストイックですよね。大義のもとで医師という職業、患者さんと向かい合っているというか。

天野:自己犠牲というか、厳格に医師を全うしたいですね。若い頃は自分の欲を追ってもよいと思いますし、学生にもそのように言います。欲望を持たなかったら、公共の福祉に従事したい、誰かのために役に立ちたいという気持ちは本当には出ないと思うのですよ。

一時的にファッション感覚のようなものが沸いたとしても、実はそれが本物ではなかったりすることも多いですから。まずはガツガツと努力して、お金でも何でも欲しいものを手に入れてみればよいのです。そしてある一定の満足をしてしまえば、そこで見えてくるものがあるはずです。もちろんその満足を得たところで終わってしまう人もいるでしょう。

しかし、自分の欲の先にあるものは何なのか、そこで考え、気づけばよいのです。もっと違う次元のものが見たくなるものです。

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