ジャーナリスト・安田浩一さんの「わが人生最高の10冊」
「ひとを知る仕事がしたい」と思わせてくれた本
ジャーナリスト・安田浩一さん

アイドル「山口百恵」ができるまで

今回選んだのは、主に雑誌記者になってから読んだものですが、どれも時代の息吹が感じ取れるノンフィクションだと思います。

トップの山口百惠『蒼い時』だけは十代の頃に読み、矢沢永吉の『成りあがり』とともに感銘を受けた本です。

じつは僕は「明星」「平凡」を毎月買うようなアイドル好きで、フォーリーブスに始まり松田聖子、中森明菜などのコンサートにも何度も行っています。

そんな中でも山口百惠は別格で、子供時代にテレビで見た姿が、強く印象づけられました。彼女の纏う、虚無のオーラともいうべきものに圧倒された。僕自身は平凡すぎる少年だったので、自分にないものに惹かれたのかもしれません。

この本で彼女は、アイドルとしての「山口百惠」がどのようにして作られていったのか、そこに彼女自身がどう関わったのかを、複雑な家庭環境のにおいをプンプン発散させながら綴っている。

読んだとき、僕はまだ高校生でしたが、山口百惠という人格が出来上がっていく過程に惹かれ、将来「ひとを知る」仕事をしたいと思った、端緒になった一冊です。

本田靖春さんの『私戦』は「ライフル魔」として知られる金嬉老の籠城事件を描いたノンフィクションですが、僕は静岡出身で、事件の舞台となった寸又峡は、よく遠足やハイキングで行く場所だったんです。「ここでライフルを持ったオッチャンがな……」とそのたびに事件が大人たちの口にのぼりました。

'68年の出来事で、僕は当時まだ3歳でしたから覚えていませんが、本田さんは「ライフル魔」と呼ばれた男の「ふつうな一面」にスポットを当てながら、そんな男が暴力団員を射殺し、刑事から受けた民族差別への公開謝罪を求めていく様を丹念な取材で綴っている。

「犯罪ノンフィクションの金字塔」であるとともに、いまでも在日コリアンの人たちが置かれている苦境が伝わってくる本だと思います。