菅・仙谷「増税発言」のウラに
財務省の倒閣運動あり

首相の留守中を狙って揺さぶり

 鳩山由紀夫政権が消費税引き上げに一段と踏み込んできた。

 菅直人副総理兼財務・経済財政相は4月12日、日本外国特派員協会での講演で「増税しても(財源の)使い方を間違わなければ、景気は良くなる」と述べた。

 すると、翌13日には仙谷由人国家戦略相が「消費税だけでなく税制改革、歳入改革を掲げて選挙をしなければ、国民にはなはだ失礼だ」と消費税引き上げを争点にした衆院解散の可能性に言及した。

 菅は13日も会見で「増税の経済への影響を再検証している」と述べている。

 当コラムでも指摘したように(たとえば『菅、仙谷両大臣「消費税引き上げ発言」の裏側』1月15日公開)、菅と仙谷は今年初めから消費税引き上げに舵を切っていた。

 だが、今回はこれまでとは違う、見逃せない事情がある。それは鳩山由紀夫首相が訪米中で日本を離れていた間に、2人がそろって増税に触れた点だ。

 私は2人の発言自体よりも、このタイミングに「きな臭さ」を感じる。

 鳩山首相の留守中に重要閣僚から増税発言が出たのは、おそらく偶然ではない。首相がいない間に重要閣僚に派手な「増税花火」を打ち上げさせて、政権がさらに難題を抱えるのを意図的に狙ったふしがあるのだ。では、だれが、そんな仕掛けをしたのか。私の推測は財務省である。

 財務省が菅と仙谷に増税の必要性を訴えていたのは、いまさら言うまでもない。

 鳩山はかねて「4年間は消費税を引き上げない」と公約し、衆院解散についても「任期中は解散しない」と繰り返し言明してきた。この姿勢は一貫して変わっていない。

 ところが今回、仙谷は「歳入改革を掲げて選挙を」と首相の特権事項である解散権の行使にまで踏み込んで、消費税引き上げを訴えた。これ自体、閣僚の発言として「行きすぎ」と言ってもいい。さすがに平野博文官房長官が「時期尚早の議論だ」と打ち消しにかかったほどだ。

 もちろん鳩山が東京にいれば、記者の質問はもちろん鳩山に集中していただろう。だが、平野が否定してみたところで菅と仙谷の発信力に比べれば、非力は否めない。政権の増税傾斜姿勢だけが国民の印象に残ってしまった。

与謝野官房長官に裏切られた安倍首相

 実は、首相が外遊中に閣僚を使って重要案件を動かす手口は霞が関の高等テクニックの一つである。これには前例がある。

 当コラムの筆者でもある高橋洋一さんが安倍晋三政権で内閣参事官として公務員制度改革などで活躍していたころ、安倍の外遊中に霞が関の天敵だった高橋の異動話が3度も突然、浮上したことがある。

 一回目は2006年10月の中国・韓国訪問中。二回目は同年11月のベトナム訪問中。三回目が07年4月末からの訪米中である。最終的に高橋が更迭されたのも07年9月のオーストラリア訪問中だった。計4回だ。これだけ重なると、偶然とは言えない。

 安倍は高橋の理解者であり、政権で最大の保護者でもあった。霞が関が高橋を政権から駆逐するには、安倍がいない間に画策するしかなかったのだ。安倍は高橋の処遇について「高橋君のいいようにしてやってください」と当時の与謝野馨官房長官に指示していたにもかかわらず、高橋は結局、閑職に飛ばされてしまった。

 この一件で与謝野の離反があきらかになり、それも遠因になって、高橋が辞意を固めた翌日、安倍は突然、退陣を表明した。このあたりの事情は拙著『官僚との死闘700日』(講談社、08年)で詳述した。

 私には、今回の菅と仙谷の増税発言が高橋更迭の経緯とダブって見える。

 鳩山はかねて増税に否定的だった。それどころか米軍の普天間飛行場移設問題で手一杯で、とても増税を検討する余裕などない。菅はといえば普天間問題が難航し鳩山退陣が現実味を帯びてくる中、もしかすると自分に政権が落ちてくる可能性が出てきた。

 仙谷も後継候補の1人であるだけでなく、菅政権となれば官房長官か幹事長の椅子が回ってきてもおかしくない。

 こういう情勢を見渡して、財務省は「ここが絶好のチャンス」とばかり増税キャンペーンを菅と仙谷に根回ししたのではないか。

 どちらにせよ鳩山は不在なのだから、首相自ら否定コメントは出せない。せいぜい平野が顔をしかめる程度である。メディアの注目は普天間一色に染まっている。うまくいけば、検討中の財政健全化法案に増税路線を盛り込む流れが固まる。まずくいっても、失うものはなにもない。財務省はそう考えたに違いない。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら