開発費10億円以上!「顧客に鍛えられる環境」が成功の秘訣
光学検査装置・レーザーテック 岡林理社長に聞く

携帯電話やパソコンといった必需品に、必ず組み込まれている半導体デバイス。今回登場する、光学検査装置の企業・レーザーテックは、こうした半導体デバイスの部品を検査する装置を、製造・販売する。メモリーの大容量化は同社の技術なくして実現できない、とさえ言われている。また、高い技術力を、エネルギー・環境関連製品、レーザー顕微鏡など様々な分野でも活かしており、売上高、営業利益ともに右肩上がりだ。岡林理社長(57歳)に聞いた。

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おかばやし・おさむ/'58年東京都生まれ。'82年、早稲田大学理工学部卒業後、外資系企業などを経由し、'01年にレーザーテックへ入社。'03年に営業統括、取締役に就任。'08年に副社長、'09年に社長へ就任し、以来現職。同社は研究費の比率が高く、売上高150億円に対し、毎年10億円以上を開発費に使う

1万分の1

携帯電話の記憶容量がメガバイトからギガバイトへと大容量化してきたのは、使われている半導体メモリーの微細化が進み、高密度化しているからです。

現在、スマートフォンに使われている半導体デバイスの回路の最小線幅は、20ナノメートル以下です(1ナノメートルは10億分の1m)。さらに10ナノメートル以下の線幅の半導体デバイスも開発されており、これなどは髪の毛の太さの1万分の1ぐらいです。

そこに欠陥がないかを調べる際に、弊社の光学検査装置を使っていただきます。メモリーなどを製造しているのは弊社でなくお客様ですが、記憶容量が大きくなったといったニュースに触れると、私までうれしくなります(笑)。

切なる願い

微小な形状を観察する技術は、多くの分野で必要とされています。例えば、飛行機に使われている部品の表面を細かく調べることで、金属疲労をおこしていないかどうかがわかり、万一の事故が防げます。化粧品のパウダーの形状を測定することで、より肌が美しく見える商品が作れます。

また、リチウムイオン電池内部の化学反応を詳細に観察することで電池の大容量化にも貢献しています。もっと安全に、もっと長く、もっと美しく、という世の中の切なる願いに貢献できる喜びが、弊社を動かす原動力なのだと思います。

走る! マラソン大会出場時の岡林氏(写真左端)。「運動神経が悪い」と話すが、ゴルフやウィンドサーフィンも楽しむ

偶然

幼い頃は昆虫が好きで、ファーブルのような学者になるつもりでした。ところが小学生の時、トランジスタを使ってラジオを作ると、次第に興味が電気へと移っていきました。半導体に関わるようになったきっかけは、大学の理工学部で研究室を選ぶ時、くじ引きで4度外れて、厳しいと評判だった半導体の研究室に配属されたことです。

人生には、思いがけない出来事や、予想もしない人や仕事との出会いがあり、その道筋が変わってゆくことが多いと思います。現在、半導体業界に関わっているのは、まさにこの時のくじ引きのおかげです。こうした偶然を含め、すべてを肯定的に受け入れてきたことが、自分の財産になっています。

遠回り

幾度か転職を経験しています。新卒で入った企業は外資系だったのですが、2年半で退社し、大学院に戻った後、数百年の伝統を持つ非鉄金属メーカーが設立した半導体の研究所に勤めました。ところが、この企業の経営多角化は軌道に乗らず、数年で研究所の規模を縮小することになり、私は元の外資系企業に戻ったのです。

当時は会社を辞める人は少なく、何年か遅れをとった感もありました。ですが、全て自分で決めたことだから、仕方ない。しかも、両社はカルチャーが真逆で学ぶことも多かった。今思えば、遠回りしたことは自分にとって、かえって良かったと思います。

最大限に世の中に貢献するために

仲間と 大学のスキーサークルなど旧友との集まりには忙しくとも顔を出す。一番右が岡林氏

好奇心

趣味はいろいろです。音楽も好きですし、友達とゴルフにも行きますし、釣りもします。いろいろ経験したいからでしょうか、ひとつのことだけに打ち込むのではなく、幅広く楽しんでいます。食事も、海外出張ではその土地土地での料理を楽しんでいます。食事も、食べられるものであれば、おいしくいただきます(笑)。

スピード

経営者として大切にしている言葉は、ゼネラル・エレクトリック(世界最大のコングロマリット)の元CEOであるジャック・ウェルチ氏の「Change before you have to(必要に迫られる前に変革を実践すること)」です。

例えば、これから成長の可能性のある市場が、ABCDの4つ考えられるとします。そのなかで「この市場が確実に伸びる!」と明らかになってから参入しても遅い。だから私は、多少のリスクがあっても、可能性があれば挑戦し、挑戦したうちのいくつかが成功すれば良いと考えています。しかも、難易度が高いことに挑戦していると、お客様も協力してくれます。

強さ

良い組織をつくるポイントは、「人の強み」と「会社の強み」を見極めることだと思います。前出のウェルチ氏は「競争優位性がないなら競争するな」とも言っています。個人も組織も、神様ではないので不得意なものがあるのは当然です。個人も会社も強さが発揮できるところで仕事をしていれば、生き生きとし、最大限に世の中に貢献することができるのではないでしょうか。

一歩先へ

働いていて一番うれしいのは、今も昔も、お客様から「こういうことはできないかな?」と相談される時です。弊社はお客様に鍛えてもらって成長する企業です。

営業はお客様の要望をただうかがってくるだけではなく、どのような背景で、その要望が出てきたかまで掴んでくる。開発者は「さらなる要求はないのか」と常にお客様の期待に応えていく。すると、困った時には真っ先に声のかかる、信頼される会社になることができます。

こういう素地があってこそ、まったく新しく、かつ世の中のためになるものをつくることができるはずです。これからも、もっと美しい画像のテレビ、もっと速いスーパーコンピュータ、もっと長持ちする電池など、優れた製品が生み出される際の「縁の下の力持ち」として貢献してゆきたいですね。

(取材・文/夏目幸明)
『週刊現代』2015年10月30日号より

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日本一社長を取材している記者の編集後記

セレンディピティという言葉がある。「素敵な偶然の出会いや、予想外のものを価値に変える」といった意味だ。企業も個人も、目の前に度々、思いも寄らぬ難題がやってくる。これらは、善でも悪でもなく、ただの現象だ。だが、これを忌避し、嫌がり、動こうとしない人間と、これを奇貨として、動き、エネルギーに変える人間がいて、徐々に、運命は変わっていく。当然、企業単位でも、対顧客、と言った限定的な局面でも同じなのだろう。

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