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「モノを買わない」先進都市から読み解く、「資本主義の先」の世界の行方

編集者・菅付雅信さんが語る『物欲なき世界』
佐藤 慶一 プロフィール

編集手法を用いて、いまの時代精神を編み上げたい

――資本主義からのシフトは新しい問題も引き連れてくるのではないでしょうか?

菅付:たとえば、9時~17時で労働することから解放されると、時間が余るようになります。だから、暇な時間をどうするのかという課題が生まれてくるでしょう。加えて、価値観の対立が激しく起きるようになります。

年収2,000万円だけれど、夜はファミレス、時々バーやキャバクラで散財する人に対して、年収500万円だけれど時間がたくさんあり、毎週友だちみんなで食材を持ち寄ってご飯をつくり、賑わいながら食べる。このどちらが幸せなのか。いいのか悪いのかを含めて新しい価値観を考えていくことが重要なのです。

ただ、日本とアメリカで大きく違うことがひとつあります。それは若者文化の基本にカウンターカルチャー(対抗文化)があるかどうかです。つまり、アメリカでは上の世代に代わる新しい文化をつくる。新しいことを提案して前の文化をつぶすという意識が色濃く残っています。

オーガニックやサードウェーブコーヒーも根本的にはカウンターカルチャーがあるわけです。どちらも前の制度を乗り越えようという気概がある動きですが、日本ではカウンターカルチャーとしてではなく新しいトレンドとして消費されている。このままでは物欲レスの先の世界でアドバンテージを握ることはできないでしょう。

ブルーボトルコーヒーなどサードウェーブコーヒーの根底にもカウンターカルチャーの流れがある〔PHOTO〕gettyimages

――お話を聞くなかで、専門家ではなく分野を横断した人や情報にアクセスできる編集者だからこそ書けた1冊なのかなと思いました。

菅付:まさにその通りで、これまでに書いた『はじめての編集』でも『中身化する社会』でも、編集者のスキルやノウハウを援用して書いています。自分はあくまでも編集者であり、経済学者やジャーナリストではありません。

この本では、ファッション、経済、思想……大量の資料を集め、人に話を聞いた情報をもとに、点と点を丁寧につなぎ合わせて、物欲レスの先にある社会や世界を浮かび上がらせました。

もし経済学者が消費をテーマに書くならば、流通やファッションについてはそこまで触れず、ファッションジャーナリストであれば、思想系のことにページを割かないと思います。

この『物欲なき世界』で試みたのは、これまでに培った編集手法を用いて、いまの時代精神を編み上げるということだけです。過去や現在の事象を紹介するだけでとどまらず、自分が書けるなかでできるだけ長く耐えうるかたちで「これからの世界はたぶんこうなるだろう」ということを書けたと思っています。

(了)

【お知らせ】
10月27日から渋谷ユーロライブで3日連続の「物欲なき世界」連続トークを皮切りに、11月3日12時からは『物欲なき世界』刊行記念トークショーを開催!
http://www.standardbookstore.com/archives/66194250.html

物欲なき世界
著者=菅付雅信 (平凡社/1,512円)

なぜ人々はモノを買わなくなったのか?
先進都市の人々の物欲がなくなる中、世界はどのように変わり、そして生き方はどのように変わるのか。消費が飽和した後に来る世界を、内外の取材と膨大な情報量で描いた知的興奮がある一冊。

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