長渕剛の『乾杯』を語ろう〜バブルの裏側をとらえた愚直な応援歌、大ヒットの理由
神山典士×田家秀樹×柳井満
Amazonより

人生の転機を迎える大切な友へ—。心から伝える真っ直ぐな言葉、美しいメロディ。世間がバブルに浮かれた時代、愚直な応援歌を歌い上げた男がいた。

技巧的じゃないのがいい

柳井 『乾杯』は、大切な人の門出を祝う曲として、日本中の学校の卒業式で歌われたり、音楽の教科書にも載ったそうですね。そして、結婚式の定番ソングでもある。

神山 私も結婚式で何度も歌いました。後輩の式に行って、友人たちと一緒に歌ったり。ファンじゃなくても、世代を越えてみんなが歌える曲です。

田家 最近のウエディング・ソングって、技巧的な狙いが見えてしまう。どうやって泣かそうかとか、結婚する二人の思いを歌い込もうかとか。

柳井 『乾杯』は違いますね。作り物ではない、自然な感じがします。

神山 この曲は、長渕さんが結婚する友人のために作った曲と言われています。つまり、「誰のために歌う」という目的が純粋なんですよ。歌に不純物が入っていない。

田家 特別、音楽的に難しいことをしている曲ではありません。けれど、前向きさとか、背筋を伸ばしてどこかへ向かおうとしている清々しさとか、長渕さんの一番ピュアなところが出ている。

そしてこの曲は、誰が歌っても「いい曲だな」と思えるのがすごい。

柳井 実際、結婚式などで普通の人が歌うのを聞く機会のほうが多いかもしれない。でも、やはり長渕くんの声だからヒットしたんだなとも思いますね。彼の声って、独特でしょう。

神山 もともと美しい声だったんですが、20代の長渕さんは、ブルース歌手のようなしゃがれた声に憧れ、アルコール度数の強い酒でうがいをしたりしてノドを潰した。でも、声って簡単に変わるものじゃない。相当な努力を重ねているんです。

田家 もちろん、長渕剛が歌ってこその曲なのですが、無理にメロディを作ってないから誰でも思いを込めやすい。曲の構成もわかりやすく、難しい音域でもないので、素人でも歌いやすいんです。

神山 ファンの間で語られている逸話なのですが、長渕さんはこの曲を、ツアーでの電車移動中に作ったそうです。「近く友人が結婚するから、歌を贈ろう」と、長野から名古屋への中央本線に揺られながら、数時間のうちに作り上げたと。

田家 でも、ギター一本で作った感じはない。生ギターで作曲すると、コードにとらわれたり、内省的になりがち。しかし、この曲には壮大なスケール感があります。

柳井 普段から自然と耳に入ってくる曲だから、あまり注目したことがなかったのですが、改めて読むととてもシンプルでいい歌詞ですよね。

乾杯/長渕剛の3枚目のアルバム『乾杯』('80年)に収録。'88年、セルフカバーアルバム『NEVER CHANGE』からの先行シングルとして発売されると、大ヒット。累計100万枚を超えるセールスを記録した